思想について
当院では特定の信仰は持っておりませんが、無論のこと、医療における霊性に対しては非常に重要な要素だと考えており、患者さまの持たれている信仰に対しては、最大限の敬意を持って接しております。
当院の名前の由来は茶道の哲学における「露地草庵」に依拠しています。禅や茶道といった東洋思想には強い影響を受けていますが、その根幹は無我と自然への畏敬の念だと考えております。院長も含め、スタッフ一同、茶道や禅に精通するものはおりませんが、医療や音楽といった体験を経て、そういった東洋思想との関連性を見出し、当院の創設にあたってそういった概念を取り入れることで、医療の目的をより明確なものにしています。
つゆくさ医院の診療コンセプト
① 自然とテクノロジー
東洋医学と西洋医学、歴史と科学、アナログとデジタル
② 「露地草庵」
露草 (つゆくさ) 医院
③ 「一期一会」
その時、その場にしかないもの
① 自然とテクノロジー
科学が発展し、テクノロジーが発展して人間の遺伝子の全てを解析した今も、人間には人間の力だけで生命を生み出すことは出来ません。しかし人間は、他の動物と違い自然の力によって発生したものを「加工」する能力には長けており、それが芸術を始めとした創造性を生み出す原動力になっています。音楽においてもデジタル技術は音を加工・トリミングする能力は優れているものの、音を発生させたり、増幅させる能力はアナログ機器の方が優れています。これは感覚的な問題ですが、未だに高価なアナログ機材が販売され続けている市場があることはその違いを人類が感じ得ている証拠と考えて良いでしょう。それと同様に、医学においても西洋医学は症状を「消す」という対症療法に優れていても、元気や自己治癒力を「生み出す」という手段は持ち合わせていません。ですから西洋医学は常に対症療法にならざるを得ません。それに対し、天然の生薬を用いる医学である東洋医学は、そういった力を「生み出す」医療であり、その医療は根本治療へと繋がります。当院では、一般的な医療における薬の8割以上が漢方薬であるような医療が、現在の日本で行える最良の医療であると考えています。
当院が理想とする医療は、西洋医学の対症療法で症状を抑えつつ、自己治癒力を生み出すという自然の力を内包した漢方薬で根本治療をするという医療であります。現代において失われつつある自然に対する畏敬の念を、人類が再考し、回復することが、当院の医療の最終目標でもあり、待合室ではその思想を音楽を用いて形にしています。
② 「露地草庵」(ろじそうあん)
現存の一般的な病院では、検査のない東洋医学科の診療を継続することは病院経営の面で経済的に困難であるためにまだまだその数は多くありません。
当院の開院は、増え続ける東洋医学の需要の中で、検査機器や看護師への給与というコストを削減することで、東洋医学的な診療を実現しようというものであります。
当院での診察には主に問診・舌診・脈診・腹診という器具や場所を用いない診察方法と西洋医学的な聴診や打診、インフルエンザや溶連菌といった簡易検査のみを用いるため、一般的な病院で必要とされるような大きなスペースを必要としません。また、小さな診察室は医師患者関係をより近いものとし診療の質を向上させると考えています。茶道において、「侘び」の思想を完成させた千利休は茶室を2畳半にし、感覚的な情報量を少なくすることで様々な事象に対し、感覚を鋭敏にし、限られたものの中で文化を創造するという思想を具現化しました。そういった芸術性は医療においてもとても重要なものであります。当院でもその思想を継承すべく、診察室は2畳半としました。診察室には1畳の畳があり、腹診の際には、その畳にて行います。
また、当院では一般的な病院における待ち時間の質を問題視しており、待合室の時点から医療が始まるような空間を目指しています。それは茶道が茶室である草庵に至る前の、露地から始まるという「露地草庵」という思想に繋がっています。
③ 「一期一会」(いちごいちえ)
「露地」は「路地」ではありません。草庵に至る前の露地において、俗世から露(あらわ)になるための地であることを示しています。現代人の脳は東洋思想における陰陽理論から考えると、溢れ返る情報とその利便性故に「陽性化」し過ぎています。本来人間は社会から帰宅した後は、世間から離れ陰性化する時間を持つことが、心身の健康にとって重要な時間であるにも関わらず、現代人は帰宅後もテレビの音と光に包まれ、寝る直前まで携帯電話を見て社会と繋げられてしまっています。そのような現代人の脳を陰性化することの重要性を体感する場所として待合室を機能させようと考えています。
具体的には、音・光・香という空間要素に留意しています。特に当院のテーマでもある、「テクノロジーと自然」というテーマに基づき、その思想が音環境としてデザインされています。二組の再生機器と真空管アンプ、スピーカーを用意し、一つは無指向性スピーカーから自然音であるフィールドレコーディングを流し、もう一方のシステムからは1960年代の大量生産以前の同軸スピーカーを用いて、東洋思想に基づいたアンビエントミュージック(環境音楽)を流します。双方の音源は「静寂のための音楽」というコンセプトを元に国内外の音楽家に作曲を依頼した当院でしか聴けない音楽が流れています。二つのオーディオシステムから流れる音楽はランダムに再生されるため、その場にある音楽はその時その場でしか存在しない「一期一会」の音楽になっています。