当院では「これは内科の病気」「これは精神科」というように体と心を分けて考えることはしません。からだとこころはつながっています。診察時間は一人10分ずつになっており、便通・睡眠から心の状態・生活状況に至るまで、可能な限り共有したうえで、心と体の相互関係も考慮した診断・処方を心がけています。他院と違うところは、診察前の問診票を大切にしているということです。短い診察時間をより有効なものにすること以上に、健康にとって大切なセルフモニタリングの訓練にもなるためです。

セルフモニタリング治療の一環として問診票を記載することも治療の一つであると考えています。

セルフ モニタリングの重要性(かぜのしおりより抜粋)


 こどものカゼは、機嫌が悪くなることで発症することがあります。「いつもは喜んで食べるものを、今日は嫌がって食べようとしないなぁ?」と思っていると、実は胃腸炎になっていた。なんてことは、よくあることです。

 大人の場合は、自分の感情をコントロールできるようになっているので、そこまで露骨にこころが悪くなることはありませんが、なぜか今日はやる気が出ない。生理前でもないのにイライラする。そんなことも、実はカゼの始まりだったりします。これが「未病」と呼ばれる段階です。

 自宅に漢方薬を保管しておいて、それを使いこなせるようになると、そんな未病の段階から、治療が開始できるのです。

 やる気が出ないときには、41補中益気湯(ホチュウエッキトウ)を内服することがあります。やる気・元気の「気」は、西洋医学的な免疫力と密接に関係しています。ですから、カゼの初期症状としてのやる気がでない、という症状であったとしても、やる気を出すと共に、実はカゼを治療していることにもなっているのです。漢方治療というのは、西洋医学のように、ここからは「病」なので治療をする、という線引きはなく、「健康」な状態からの連続的な経過として「病」があり、その間のどの時点からでも治療を開始できる、というのが特徴の一つです。ですから、カゼという状態を、平静からしっかりと見つめることが出来れば、「健康」とはなにかということに能動的になり、「セルフ・モニタリング」のスキルが上がり、かぜにならないことができるのです。それが僕の考える「カゼの効用」です。 心身の変化に対して、できるだけ早い段階で気づくことができれば、漢方薬がなくても、食事と睡眠の調整だけで、多くの場合は健康を取り戻すことができます。けれど忙しい日常の中で、ついうっかりとカゼをひいてしまったら、自然の恵みである漢方薬をつかって、自分の状態を「健康」な状態に戻しましょう。そのためには、日々の「セルフ・モニタリング」が、何よりも大切な養生法であり、カゼのつらい思い出は、その習慣を促してくれるのです。

 カゼをひきたくない、というその思いこそが、効果的なカゼの予防策の第一歩なのです。