瘀血(オケツ)について

 漢方診療を行っていると、現代病の代表的な症状の原因の一つとして「瘀血」という証(体の状態)があるということをとても強く感じます。

 瘀血というのは簡単に言うと「血の流れ」が悪いということです。身体に現れる症状としては、まず舌や唇が紫色になり、黒い斑点が出たり、健康であれば見えないはずの舌下静脈が見えるようになります。またシミ(肝斑)、肩こり・冷え症・腰痛・五十肩・頭痛・胃痛・生理痛と言った症状が慢性化します。

 

 人間の身体のpHは7.3前後とややアルカリ性になっています。この瘀血の状態が現れることには、体内が酸性になることが関係していると言われており、食べ物では白砂糖による酸性化、解熱鎮痛薬などの酸性の化学物質の持続的な摂取がこの瘀血に関与していることがよくあります。

 典型的な例は、20代後半の女性で、十代後半からチョコレート、アイスといった甘いものを過剰摂取し続けることによって現れてくる頭痛・胃痛・生理痛という三大症状です。そういう女性は生理の血の色が暗い色になり、本来全くないはずの塊が増えて来ます。さらに、身体からのメッセージである生理痛などにも関わらず、瘀血を助長する鎮痛薬で痛みを一時的に止めて、同じように甘いものを取り続ける身体の酸性化生活を続けていると、子宮筋腫・卵巣囊腫という病気につながることがとても多いのです。

 

 何故、甘いものがいけないのか?ということは一般的には下記のように説明されています。

 

 まず、現在市販されている甘いものにはほとんどもれなく大量の白砂糖が入っています。某ファーストフードのシェイクには角砂糖28個分、缶ジュースのコーラ350mlには10個分、スポーツ飲料500mlには9個分の糖分が入っています。

 

 食べ物はどんなものでも、口の中に入ると酸性になります。このことは歯科領域で盛んに研究されている部分なのですが、歯のエナメル質はpH5.5以下になると溶け出します。ところが唾液(重要な消化液の一つ)によって数時間後には中性からややアルカリ性になるので、歯の溶出は止まり再生のための石灰化が始まります。つまり、虫歯になるかならないかというのは、口の中がpH5.5になっている時間がどれぐらいなのかということが重要で、その時間が短ければ短いほどエナメル質の再生をする時間が長くなるので虫歯にはなりません。

 食事の中で、口の中を最も強く酸性にするのは砂糖などの糖分です。つまり口の中の中性を取り戻すためには時間がかかります。ところが一日に3回の食事であれば、エナメル質の再生のためにpH5.5以上になる時間は十分にあるのですが、間食をするとそこでまた酸性に逆戻りしてしまうので、口の中がずっとpH5.5

以下にあるような状態になってしまうため虫歯が増えると考えられています。

 このことは、あくまで口の中だけの話です。これだけでも甘いものや間食の恐ろしさが分かると思うのですが、全身の話になるともっと複雑になってきます。

 人間にとって糖分というのはエネルギー源であり、生きて行くのに欠かせない成分です。ですから、人間のホルモンのほとんどは血糖値を上げるホルモンです。そして血糖値を下げる数少ないホルモンのうちの一つがインシュリンです。糖分という重要な栄養素が体内に入ると、体中の組織から様々なホルモンが分泌され、人間のバランスやリズムを作っている自律神経と呼ばれる交感神経と副交感神経のバランスを大きく変動させます。

 現代病の多くは自律神経の失調に関与していると言われていますが、それらの症状に糖分の摂取がどれほど大きな影響を与えているのでしょうか。コンビニは全国どこにでもあり、自動販売機は100mごとに設置されている。いつでもどこでも手軽に間食できる便利さが現代病にどれだけ関与しているのかということは想像するに難しいことではありません。そういった便利な現代だからこそ、自律神経は乱れやすく、現代病の多くは自律神経失調であると言われる所以です。

 

 さて、白砂糖の話に戻ると、砂糖の中でも何故白砂糖は特に良くないのでしょうか。

 自然界にある食物は「一物全体」と言って、食物全体で一つのバランスを保って生きています。だから野菜は出来る限り茎も葉も皮も根も食べた方が良いし、魚も頭からシッポまで全部食べるのが良い、食塩も海の成分をそのまま保存している天然の塩が良いと言われています。最も有名なのが玄米で、玄米はそのまま土に植えるとちゃんと次の世代を生み出せるぐらいの、生命としての完璧なバランスを持っている(タンパク質もカルシウムもミネラルも十分に含まれています)ので、白米よりも玄米が良いとされているのはそのためです。(ただし胃腸虚弱の状態では玄米が身体に悪いこともあります)。

 白砂糖というのは白米のように精製されたもので、本来天然の砂糖に含まれているビタミンの成分が削ぎ落とされてしまっています。ビタミンというのは、現代科学において免疫学以上に未解明の部分が多いのですが、消化液がうまく働くための酵素活性などの作用に深く関わっています。

 先ほど口の中の酸性状況を唾液によって中性に戻すというお話をしましたが、その唾液の活性化にこのビタミンが関与しているのです。ですから白砂糖というのは砂糖の中でも特に酸性の時間を長くさせるものだと考えられています。

 

 そして、白砂糖以上に身体の酸性化を進めている、つまり瘀血の増悪を進めていると考えられているのが、アセチルサリチル酸という酸である解熱鎮痛薬です。特に近年、薬局で手軽に買えるようになってしまったロキソニンに代表されるNSAIDs(エヌセイズ)というものがこの身体の酸性化を強烈に進めます。

 先に挙げた20代後半の女性に多い典型例は、甘いものの取り過ぎで出て来た頭痛や生理痛を、とりあえずその症状を消すためにNSAIDsを取ることで、実は根本原因である瘀血は一層のことひどくなっていく。そういう状況を続けることによって痛み止めすらも効かなくなり、様々な病気が慢性化していく。という人が驚くほど多いのです。

 

 瘀血症状のある人は、なるべく甘いものを減らしましょう。食べるのであれば、身体を悪くしてまで摂っていることを自覚して、少ない量を目をつぶってよく味わってしっかりと楽しんで食べましょう。また間食ではなく、食事の直後に食べるようにするだけでも変わって来ます。

 また患者さんの数の問題もあってここでは瘀血=白砂糖のように書きましたが、慢性的な気虚、血虚、あるいは陰虚などの症状に続発することもあり、嘔気の強い頭痛のあるような方はこういった瘀血・陰虚症状から痰濁にまで至っている方が多く、治療にも時間がかかります。

 

 最後によく受けるご質問に「人工甘味料はどうですか?」というご質問がありますが、白砂糖より悪いことが多いので、ご注意ください。運動療法はこの瘀血を改善する効果があります。

 甘いものをやめろと言われてすぐに止められるのかというとそうも簡単には行きません。実はこの甘いものへの中毒性は、「負のループ」という困った人間の習性があるのです。つまり、瘀血症状が進めば進むほど、耐え難い甘いものへの欲求が生じてしまうのです。この「負のループ」については、漢方薬の治療が功を奏しますが、また別の機会に書いて行こうと思います。