外じゃなく自分を変える
西洋医学は症状をとるだけの「対症療法」であるということを書いて来ましたが、本来、医療というものは、薬や施術に依存している限り、それが漢方薬であったとしても、本質的には「対症療法」なのです。ただし、西洋医学と東洋医学のもっとも大きなちがいは、その治療によって、自分自身の生活の「改善方法」がわかるかどうかということです。
化学物質で合成された解熱鎮痛薬を飲んで頭痛が治ったとしても、頭痛の原因が、自分のどのような生活にあるのか。ということは、何もわかりません。ところが、漢方薬では、数十種類ある頭痛薬のうち、どの漢方薬が効いたのかによって、「生活のどの部分に原因があるのか」ということがわかるので、自分の生活を改善するという根本治療に至れるのです。からだにしても、こころにしても、自分の中に起こる不調の原因を、自分の外側のせいにして自分を変えようとしない限り、その不調が根本的に治癒されることはありません。
例えば、気象病という診断名のように、自分の不調の原因を「気候」のせいだ。と発見したとしても、気候を自分で変えることはできません。ところが、その原因や治療法を自分自身の食事や睡眠の中に発見することができれば、その不調は「自分で」治すことができます。花粉症の原因を、昔の役人が日本中に杉を植えた愚策のせいだ!と外部環境のせいにしても、花粉症は治りません。マスクや抗アレルギー薬に依存して、外部環境から逃げ続け、自分自身の生活を変える姿勢がなければ、時間を追うごとにその症状は悪化していきます。花粉に反応しすぎない人がいるのだから、その人と自分の生活の違いを発見し、自分自身で生活の改善ができれば、花粉症はその人の世界からなくなるのです。
こころの問題にしても同じ治療原則が成り立ちます。自分がストレスを抱えているのは、「あの人のせいだ!」と外に原因を見つけても、喧嘩してるぐらいの人なので、自分がその人を変えられることは少ないでしょう。そもそも「生きる」ということは、とても大変なことです。世の中の嫌な部分を探せば、無限にあります。嫌なことも嫌な人も、探し出せば必ずあるのが、この世のしくみなのです。そんな広大な世界の中で、自分自身がどこに意識を向け、どこに反応をするのかによって、その人の世界はかたちづくられていきます。つまり、「世界は自分の鏡」なのです。
相手の悪いところを探し出し、ストレスに感じているのは自分です。だから「ストレス発散だ!」と自分を変えずに、悪口を誰かにいって回っている人は、どんどんとストレスがたまっていくのです。その人がいても、ストレスに感じない人がいるのですから、その人と自分の考え方の違いを考えて、自分自身の思考回路を変えれば、そのストレスから解放されていくのです。それは簡単なことではありませんが、ストレス源の人を変えるよりも、はるかに建設的で達成しやすく、健康的なことなのです。新型コロナにしても、ウイルスからマスクやワクチンでその場をしのいで逃げ続けることばかりして、自分の生活を改善しない限り、その病から解放されることはありません。ウイルスに接しても、発病すらしない人と自分の違いを知り、自分自身の生活を変えていくことが一番大切なのです。そしてそのことが、人類全体で考えるべき、本当の課題なのです。
アートは自分の状態が作品に現れ、その作品に反応してくれる人とのコミュニケーションが生まれます。自分が何者か知りたければ、自分の周りを見ろ。と言いますが、アートは作品を介して自分の世界が形成される。つまり「世界は自分の鏡である」ことを、体験的に学ぶことができるのです。自分自身が見ている世界は、常に外部環境のせいではなく、自分自身に原因がある。という思考回路が形成されていく。世の中がつまらないなら、世の中を変えるのではなく、まず自分自身のあり方を変えること。そんな姿勢は、自分自身で何かを作り出せることを体感するアートの営みの中で培われていく。僕はそう感じています。