認知行動療法について

 

 認知行動療法を理解するためには、まず、「世界観というものは自分が作り出している」ということを理解しなければなりません。様々な人の前に広がる世界は一つですが、その世界の見え方は人それぞれ違います。「生きるということはなんて辛いものなのだろう」「自分はなんてダメな人間で、惨めなんだ」と思って生きている人もいれば、「世の中はなんて素晴らしいんだろう」「自分はなんて恵まれているのだろう」と思っている人もいます。その違いの多くは、その人が自分の身の回りで起こっていることの何を見て、どう感じているのかという部分によって決まります。

 

 生きることが苦しいと思っている方の多くは、その理由が自分自身や他人の能力も含めて、自分にまつわる環境のせいだと思い込んでいますが、実はそれはあまり大きな問題ではありません。どんなに貧しい環境下でも、自分に与えられた恵みに感謝して幸福に生きることが出来ている人もいれば、どんなに地位と名声を得ていても自分は不幸だと感じている人もいます。幸福というのは自分がいる環境に満足することで、不幸というのはそれに不満を持つことです。人間は富や名声を求めてしまう生き物ではありますが、そういったものは本質的な問題ではありません。自分が見ている世界の彩りは、自分の自動思考が作り出している色彩なのです。

 

 例えば、携帯電話のメールの返事が来ないとか、誰かに挨拶をしたのに無視されてしまったという状況を思い浮かべてください。メールをしたのに返事が帰ってこない。この時、頭の中に沸き上がる思考は人によって様々です。「なんで返事が来ないんだろうか、私は嫌われているに違いない。」と思う人は不安な世界が広がり、「私が忙しい中、返事をしているのに返事をしないなんてなんてひどい人なんだ。」と思う人は怒りの世界が広がり「あの人は忙しい人だから何かあるんだろう。まあ気長に待つか。」と思う人には平和な世界が広がります。

 このように、何かが起こった時に思い浮かぶ思いによって、その人が生きる世界観の多くは決まっていきます。この時に浮かび上がってくる言葉のことを「自動思考」と呼びます。

 

 ストレスがかかっている時、私たちはどうしても悲観的になりやすくなってしまい、現実とはかけ離れた極端な自動思考が浮かびやすくなり、悪い部分にばかり目が行ってしまいます。その思考に縛られ、現実を見ることが出来なくなるばかりか、現実を見ることを恐れ、逃げようとしてしまいます。するとその極端な思考は現実との差がどんどんと大きくなってしまう。といった悪循環を作ってしまうのです。

 

 あなたは「呼吸」というものを日にどれくらい意識をするでしょうか?「呼吸」というのは「呼吸をしている」ということを意識しなければ意識されないものです。ところが、一度意識を向け始めるとその働きを自分の意志で調整することが出来るようになります。実は「自動思考」も無意識の働きとは違うので、自分自身でそれを知り、意識することによって、自分自身で調整できる「呼吸」のようなものなので、訓練をすれば自分の自動思考を調整することが出来るようになり、それまでに抱えていた悩みが、だいぶ楽になるということが、世界中で実証されてきて、2010年から(アメリカに20年遅れましたが)日本でも医療保険が使えるようになったのです。

 

 認知行動療法においてこの自動思考をコントロールするには、「現実を見る」ということをしていきます。ストレスがかかっていればいるほど、人間は現実と向き合うことをせずに、自動思考はどんどんと悪い方向に向かい、現実とかけ離れて行くという習性を持っています。例えば「人前で話すことが苦手だ」という自動思考が浮かんでしまう人は、なるべく現実を避け、「自分は人と話すことが苦手なのだ」という気持ちが大きくなっていきます。ところがこの不安は「人と話すこと」という現実の中での体験を重ねなければ解消されることはありません。こうして「負のループ」へとはまっていってしまうのです。

 認知行動療法では、まず「自動思考」を認識し、自分の思考パターンを知ることから始まります。その自動思考に対して、これまでの経験から現実と照らし合わせて、その自動思考が現実から離れて行くのを防ぐ訓練をしていきます。例えば、小さいころ暗闇が怖かったことを思い出してください。暗闇を見た時に、「暗いのは怖いなぁ」という自動思考が浮かびます。その自動思考はさらに悪い方向へ行くとそれが自分の長く住んでいる家の中だとしても「ひょっとしたらお化けが待ち構えているかもしれない」「ここに大きな穴が開いているかもしれない」「この先は地獄かもしれない」と不安はどんどんと現実を離れ大きくなっていきます。

 ところが、大人になって経験を重ね、「お化けなんていない。そんなの嘘だ。」「この先が地獄なわけない。さっきまでいつも通りの家だった。」などと自分で声をかけて、「暗闇が怖い」という自動思考が現実から離れて行くことを防いだり、怖くなる前に懐中電灯を用意しておいたりと、自分の思考パターンに対して現実的な対策を取るようになって暗闇が怖くなくなるのです。認知行動療法ではそういったことをあらゆる事柄に応用し、現実の中で不安や習慣を解決していく方法です。このことはストレスがかかった状態だと自分一人でやることは難しいので、医師がそれを補助するという形を取って行きます。

 一回のセッションは30分弱で、最初は毎週1回、徐々に間隔を延ばして行き、おおよそ16回、だいたい半年ぐらいで不安を乗り越えて行くことを目指していきます。各回の診察料は3割負担の一般的な保険の方で、一回2500円程度です。

 健康な身体に健康な精神が宿るのか、健康な精神に健康な身体が備わるのか、それはどちらも正しく、当院では主に漢方薬と生活指導を中心とした身体から精神を調整していく医療を実践しています。もちろん、最初の症状が強ければ、抗うつ薬や睡眠薬などの西洋薬を併用しますが、もともと西洋薬を内服していた方以外の方は、最初から西洋薬を用いることはあまりありません。1回2500円というのは、診察代と処方箋料なので、そこに1000円〜2000円程度の薬剤料がかかります。

 当院の認知行動療法は現在完全予約制です。認知行動療法をご希望の方はcontact@tsuyukusa.tokyo宛てのメールにてご相談ください。