自動思考に「怒り」がよく含まれる人は、

①「怒りは百害あって一利もない」ということを知りましょう。
②「怒りというものは自分が作り出しているもの」で、その背景には「自分は正しい」という思いが必ずあることを認識しましょう。
③ 怒りと身体は非常に密接な関係を持っているので、食事の改善や漢方薬の内服によって身体の側面からも怒りを小さくして行きましょう。

 「怒り」を完全に無くすことは人間にとっての最終目標と言っても良いでしょう。「幸福」というものは、今ある全てのことに満足することです。「不幸」というのは、今あるものに不満であることです。自分がどんな状況にいたとしても、自分を幸福にするか不幸にするかは自分が決めているのです。「怒り」から解放されることが幸福であると言っても過言ではありません。

 「怒り」というものは、他者へ向けるもの、自分に向けるもの、未来や過去に向けるものなどいろいろありますが、仏教では10種類あると言われています。ここでは一般的な概念通り、他者に対する「怒り」のことを「怒り」として定義します。非常に難しいことではありますが、それを自分で制御し、少なくして行くことは確実に出来ます。特に「怒り」という自動思考は、自動思考の中でも特に認識しやすいものなので、上記の3つを常に意識するようにすることで、自分自身を苦しめる「怒り」は日に日に陰をひそめていきます。


① 「百害あって一利なし」

 怒りというものは、悪いことしか起こりません。こう言うと必ず言われる反応が「怒りがなかったら人間らしくないじゃん。喜怒哀楽がなくなるってことでしょ?」と言われます。けれどそうではありません。楽しみや喜びは決して減りません。むしろ怒っている時間の分、喜ぶことが出来るようになるし、怒ったことで逃げて行く楽しいことが戻って来ます。

 怒る時に怒らないと相手が得をするだけじゃないか。と思うかもしれませんが、怒りというのは必ず相手の中にも怒りを生じさせます。怒るのではなく、冷静に注意をするようにしましょう。ただ、これにはなかなか時間がかかる訓練が必要なので、自分が怒りをだいぶコントロール出来るようになるまでは、とりあえず、まあしょうがないか、自分はそんなに素晴らしい完璧な生き方をしている訳でもないし、世の中の善悪は誰が決められるものではない。と流す練習もしましょう。あるいは時間をおいて怒りが消えた時に、しっかりと話をしましょう。怒りに対してその場で反応することはとにかく避けましょう。

 このことは言葉で説明するよりも、実際に体験してもらうことを積み重ねることが一番です。自分の中に怒りの自動思考が生じたら、とりあえずその怒りを鎮めてみて、その後、自分が怒った時と怒らなかった時の違いを考えてみましょう。相手にどんなに悪いことをされても、怒らなかったことが自分や周りを良い状況に導いてくれてたことを実感できると思います。

 怒ることで一番損をするのは怒った人自身です。

② 「怒りは自分が作り出している」

 「怒り」というのは自分が作り出しているものです。どんなことがあっても、怒らない人は怒りません。確かに世の中にはひどい人やひどい出来事がたくさんあります。けれどそれに対して怒ることで一番損をするのは自分自身です。ストレスや怒りというのは自分が作り出して、自分で貯めこんでしまうものです。その背後には「自分が正しい」という思いが必ずあります。正しく生きようと思うのは悪いことではありませんが、自分の中の正しさを他人にあてはめることはあまり良いことではありません。

 悪口も極力控えましょう。悪口を言いあうことがストレスの発散だという人がいます。確かに悪口は言葉にした時点では自分が肯定されるので気持ちの良いものに感じます。ところが、どこかでそれを言葉にしてよみがえらせることで、その嫌なことは悪口を言わなかった時よりも長く自分の中に存在し続けることになるのです。それに悪口を言い合っている仲間というのも実はお互いに信頼を失って行くものです。また、本人のいないところで言った悪口が他人を通して本人に伝わる時、言われた本人は実際の悪口の何倍も大きく受け止めます。それは結果的にあなたとその人の関係を実際の何倍も大きく悪化させて行くのです。

 他人に悪口を言うことをやめられたら、今度は自分の中でも悪口を考えることをやめましょう。自分の中でも言葉にすること、つまり自分を正当化し、相手を不正化する作業をすることで、怒りはより長い時間あなたの中に存在するようになり、あなたの貴重な時間を不快なものにします。怒りがある時はいつも自分を正当化することに膨大なエネルギーを使って疲弊してしまいます。一番損をしているのは他の誰でもない自分自身なのです。怒りは百害あって一利ありません。

 「怒り」を持った時点で、あなた自身にも悪い部分が必ずあるのです。

③ 体調を整える。

 怒りと身体は密接に関係しています。多くの方は身体と精神の関係に無頓着です。漢方でイライラがなくなりますよと言うと、「これは性格だから治りません」という方がいます。けれど、疲れてくるとみんなイライラします。女性が生理の時にイライラするのも身体のせいです。ですから、自分の中に怒りが生じた時は「あ、体が疲れているんだな」と思って、積極的に休みましょう。寝るのが一番だと僕は思っています。

 人間には負のループがあります。怒りは気逆という症状ですが、これは気の流れを調整する「肝」臓の働きの低下によって怒ります。肝臓の働きを落とすものに、ストレス・動物性脂肪・アルコール・ホルモン剤などの化学薬品などがあります。「ストレスが溜まったから肉食って酒を飲む!」という現代人に多い負のループがあります。ですから「肉食いて〜、酒飲みて〜」と思ったら、肝臓の機能が落ちている証拠なので、気をつけましょう!

 漢方薬では柴胡剤と呼ばれる生薬を含むものは「疎肝(ソカン)」と言って、「肝」の機能を高めて「肝気鬱結」というストレスが溜まった状態を改善する薬がたくさんあります。