塩は本当に悪いのか。

 

要点:

① 塩が体に悪いのではなく、99.9%が塩化ナトリウムの精製塩が悪い。かつそれしか科学実験はできない。

② アメリカ人の血圧を10下げたDASH食は、精製塩で除かれているK,Ca,Mg(にがり成分)を含んだ食事

③ そもそも「高血圧=脳卒中=短命」というのは間違い。高齢者や寒い地方の人は必要があって血圧をあげている。低血圧のほうがむしろ短命。

④ 全世界の食塩摂取量が5g/日なわけない!(日本は16g/日から9g/日まで減らされた)

⑤ 世界中で減塩政策をして、日本も半減したが、この70年間で日本の高血圧患者数は230万人から5000万人以上(人口の半分!)まで増えている。

⑥ 塩に関してはひどい実験と歴史がたくさんある。そもそも食塩摂取量が世界的にも高い日本が、なぜ世界長寿なのか。

→ 世界は塩の「部分」である塩化ナトリウムしかみていない。自分にとっての正解は自分で試してみること。

 

 科学の適正利用を考える上で、塩と高血圧と寿命の関係を考えてみましょう。

 

 海は生命の源であり、東洋医学では、生命力の源である腎の機能を高める食養生は五味(*注釈参照)のうち「鹹(かん)」という塩辛いものが良いとされています。陸上に生物が上がり始めた頃の海は発酵していました。塩分の豊富な発酵食品である味噌や醤油、海藻類などが腎を栄養します。赤ちゃんの羊水もその頃の海と似ていて、世界有数の塩分摂取量であった日本人が世界一長寿であったのは、塩と無関係ではないでしょう。

 

 一方の科学では、「塩=高血圧=短命」という図式を世界中の方が信じています。1950年頃に来日した米国のダール博士が、鹿児島から青森までの塩分摂取量と高血圧という限定的な指標だけをもとに、塩分=高血圧という短絡的な結論を出しました(鹿児島14g/日・高血圧20%、青森28g/日・高血圧40%など)。これを受けて1960年代から減塩運動が始まり、日本人の塩分摂取量は1950年代の16g/日から9g/日程度まで半減し、血圧も下がりましたが、現在の高血圧患者数は増え続ける一方です。そもそも、血圧が高いことが健康にとって悪いのかというとそうではありません。日本人の40代以上は低血圧のほうが、健康寿命が短いという研究もあります。東北地方の人が大量の塩分をとるようになったのには、野性によって、塩の温める作用を感覚的に知って、生活をしてきたからです。最近めっきり信頼を落としたWHOは、世界中の人の塩分摂取量を5g/日としています。食養生は、体質や環境によって正解が違うことをWHOは想像すらしていないかのようです。高齢になったり寒い地域にいれば血圧を上げなければならないのは当然のことです。年齢も居住環境も関係なく一律に5gというのは、明らかに間違っています。寒い地域の人は、血圧が高いことで、脳卒中のリスクはあがりますが、塩で血圧や体温をあげなければ、他の感染症で死ぬリスクが高まる可能性が高いのですが、それは評価されていません。つまり「部分」を見て、「全体」を見失っているのです。食塩摂取量が世界一高い日本は、食塩を取らず、高血圧の人が一人もいないヤノマミ族の人々よりも寿命が長いのです。一概に塩のせいとは言い切れませんが、彼らは免疫力が弱いことでも知られ、インフルエンザや新型コロナによる死亡率が高いそうです(未開地に踏み込む文明人のせいでもあるでしょう)。また、減塩政策によって、Na含有量の高い肉の摂取量が少なく、米を主食としているアジアの国は、腎機能不全による透析患者さんが急増し、台湾と日本は人工透析率が世界でもっとも高い国となっています。

 

 塩に関しては、病理学的にも社会学的にもいろいろな問題が山積みです。日本では日露戦争の資金難で、国が塩を管理し出し、1949年に専売公社を始めて、1971年には経済効率優先で塩業近代化臨時措置法を制定し、日本中の歴史ある塩田を強制的に廃止。工業用地確保のために沿岸をつぶし、塩の輸入さえも禁止しました。歴史ある塩田の強制閉鎖さえしないでくれれば、現在の日本の塩は、取り戻せたかもしれませんが、今となっては叶いません。以降、日本の塩はほぼすべてイオン交換膜法という方法で電気的に作られた、99.9%が塩化ナトリウムの塩、つまり「塩」というより「塩化ナトリウム」にしてしまったのです。1965年に140人が選挙法違反で逮捕された専売公社がつくったこの悪法は、1998年まで続きました。悲しいことに、現在も日本の塩の80%以上が塩化ナトリウムです。

 

 「一物一体」という言葉があります。生命は体全体でバランスを保っている。玄米は土に植えれば無数の子孫を作ることができますが、白米は芽すら出ない。ホワイトデビルと呼ばれる白砂糖や精製された小麦粉は、口に入る以前から生命としてのバランスを失っています。それらを過剰摂取すると心身の生命バランスを崩すのです。同様に天日干しされた自然塩も海のバランスをそのまま保持したものが良いことは言うまでもありません。

 

 科学的な側面から考えてみましょう。近年、世界中の血圧関連の学会が、アメリカ人の血圧を下げたDASH食を推奨しています。これはK,Ca,Mgを含んだ全粒穀物や、果物、野菜などの食事です。Ca,Mgが利尿作用をもたらし、Naの排泄を促進することがわかっています。つまり精製塩によって貯留したNaを排泄しているのです。この食事は、減塩、減量、運動、節酒よりも降圧効果があり、2週間で効果がでます。日本でも盛んに推奨されているのですが、CaとMgはそもそもちゃんとした塩(以下、自然塩)に含まれている「にがり」の成分です。つまりDASH食など取らなくても、初めから自然のバランスを保持した自然塩をとることの方が重要なのです。一物一体ならぬ、「人世一体」、人は自然界の一部です。自然の摂理を乱しすぎると、必ず心身が乱れます。けれど人間は、自然の調和を崩さずに生きることはできません。その規模がどこまでなのか。ということが、アフターコロナの人類が考えるべき課題なのです。

 

 ちゃんとした塩は人類にとって必要不可欠なものである。科学がなぜそんな当たり前のことにも気づけないのか。それは科学の方法論上の問題と限界があるからです。科学はそもそも「再現性のあること」が必要最低条件です。再現性のないもの、つまりエビデンスのないものは認めない。それが科学の強さでもあり、弱さでもあります。世界中の実験に使われるマウスは、種類ごとに遺伝子も、食事も気温も日照時間もすべて完全に一致させて実験を行っています。塩の実験にしても、自然塩のように場所や季節によって毎年変化するような材料は実験として成立させることが難しいのです。塩分が高血圧を招くというメーネリーという米国人の実験は、無論のこと100%塩化ナトリウムで実験され、高血圧になりやすい種類のマウスに、通常の20倍の塩化ナトリウム濃度の食事、人間に換算すると200g/日の食事と、塩入りの水を40年与えると、10匹中4匹が高血圧になった。という無茶苦茶な実験でした。

 

 塩に見るこの科学の脆弱性は、自然生薬を用いた漢方薬の科学的研究にも共通しています。漢方薬は10種類近くの生薬から成っているので、その一つ一つの成分が毎年違います。今、漢方薬のエビデンスを出す方法としては、統計学的に実証する(これには莫大な費用が必要で、それによって利益を得る営利団体が不可欠です)か、一つの生薬の特定部分だけを抽出してその効果をみる。という気の遠くなるような方法しか実験方法がないのです。これはまさしく「部分」の解明なので、生薬の組み合わせによって作用が異なる漢方薬の研究においては、物質同士の相互関係という「全体」は損なわれてしまいます。

 

 漢方薬は、適切な処方をすれば間違いなく効きます。僕がここまで塩の重要性をお伝えしたいと思うようになった背景には、漢方薬の摂取によって、血圧を下げることができることをたくさん経験しているからです。特に女性の血圧は、発症からの時間が短ければ、ほとんどの方が漢方薬(7,24,46,47,50,57,67,80,105,107,125など)のみで下げることができます。最初は西洋薬を併用しても、食養生と漢方薬で西洋薬が不要になる方がほとんどです。当院に通院している3000名以上の女性の方で血圧の薬がやめられていない方は2名のみで、その方々も2,3年かかっていますが、薬の量は半減しています。男性の場合は、僕の技量不足もあり下がりにくい人が多く、西洋薬の併用を継続せざるを得ない方が1割程度いるのが当院の現状です。ただし、その方の高血圧が本当に悪いものなのかはわかりません。当院の診療では、数値よりも症状を重要視しています。

 

 一方で、不適切に血圧の低い方は、水滞の状態が著しく、むくみや朝の鼻水、冷え症などを併発している方が多く、胖大舌というむくんだ舌になっています。そのような方は、自然塩の積極的な摂取によって、体調が改善されます。食養生は十人十色、全世界の人に共通の一律な正解があるはずがありません。科学はとても素晴らしいものですが、いつも正解であるとは限りません。その叡智を適正に利用するためには、科学の方法論を知り、長所と短所をしっかりと認識すること、盲信しないことが重要なのです。次回は適切な塩の取り方について書いてみたいと思います。

 

*五味(五行論で臓器に対応した味覚のことで、肝は酸、心は苦、脾(胃腸)は甘、肺は辛、腎は塩辛い鹹)

 

*DASHとは「Dietary Approaches to Stop Hypertension(高血圧を防ぐ食事方法)」を表す略語。カリウムやカルシウム、マグネシウムなどのミネラルや食物繊維が豊富な全粒穀物や、野菜・果物、低脂肪の乳製品などを積極的にとることで、塩分を排出し血圧を抑える食事。大豆、バナナ、アボカド、ブロッコリー、にんじん、アーモンド、いわし、しらす干しetc

 

*日本人の食事摂取基準(2020年版)では、1日の食塩摂取量の目標値は「男性7.5g未満、女性6.5g未満」とされ、5年前よりさらに0.5g減りました。