「陰」というのは、からだの中の成分を陰と陽に分けた成分のうちの目に見えるもの、つまり血液やリンパ液・組織液のようなものを「保つ力」のことです。生後から徐々に増えていき、早いかたは三〇代から減少し始め、特に女性は五〇歳前後の更年期の頃から急激に減少していきます。保つ力の少ない幼少期はおねしょをし、老人になるとまた、夜のトイレが増えて来ます。記憶の長さも同じように、生後から増え、更年期ぐらいから短くなります。

一方で陽というのは、目に見えないもの、つまり体内の熱やエネルギーのことで、陰によって陽が冷やされていきます。「陰」が少なくなると、「陽」が上へ上昇するため、首から上が熱くなるという症状(陰虚火旺)がでます。

 生命というものは、物質が集まってできるものですが、ただ集まるだけでは生命にはなれず、そこに様々なものを保つ力がなければなりません。「陰」というものは「生命力」でもあります。

 「陰」はおもに腎臓でつくられます。先天的なもの(主に母親由来のミトコンドリアなど)と、後天的なものがあります。後天的なものは、夜の「22時から午前2時」の間につくられます。これは、成長ホルモンや免疫細胞の活性化される時間でもあり、この時間に眠っていないと産生量が低下してきます。人間の心身は、天体の動きに大きく左右されています。夜に寝ていないと陰虚の状態になってしまうのです。

<具体的な陰虚の症状>

 陰虚は「保つ力の不足」です。まずは、水分が保てなくなるので、口渇、夜のトイレ、乾燥した便(兎糞便)、多汗・寝汗といった症状が出現します。

 骨も保てなくなるので、腰痛、下肢痛、骨粗鬆症や座骨神経痛といった症状、あるいは、糖分が臓器に保てず、血中や尿に糖が漏れ出る糖尿病になって、血管や神経が弱り、両手足のしびれや、かすみ目などが生じます。更年期障害と呼ばれる症状の多くは、この陰虚が原因になります。ホットフラッシュと呼ばれる「ほてり」は、体内に生じた熱が、陰によって冷やされないために首から上が熱くなるものです。

 また、陰虚の状態が長く続くと、陽虚という状態になり、特に下肢の冷えが強くなるため、足は冷たく、顔は熱いという状態になります。足の裏がほてる、午後の微熱なども陰虚の代表的な症状です。また血は陰の主要な成分でもあり、陰虚になると血虚の症状も同時に存在してくることが多いです。

<陰虚の治療>

 陰虚は加齢に伴うものでもあるため、治療に時間がかかることが多い症状です。

 陰虚に対しては87番六味丸(ロクミガン)を用います。さらに冷えなどの陽虚の症状があれば、7番八味地黄丸、夜のトイレや膝痛があれば107番牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)を用います。また、陰虚に伴うかすみ目があれば朽菊地黄丸(コギクジオウガン)という薬を用います。

 また「生命力」でもある「陰」は不妊症とも深く関わっています。そのため、不妊症では上記の漢方薬や、海馬補腎丸(カイマホジンガン)という薬を使います。

 ただし、朽菊地黄丸や海馬補腎丸は日本では保険適応がないため、薬局やインターネットなどで、ご自身でご購入ください。価格の目安としては朽菊地黄丸 30日3回 6000円、海馬補腎丸 30日2回 10000円程度です。保険適応の「陰虚」に対する漢方薬と併用することで、3分の1〜半分程度に費用を抑えることもできます。

 かすみ目などの症状がある場合は、まず、1、2ヶ月程度通常量で試してみてください。それで改善が見られれば、その後は半分程度の量にして保険適応薬と併用するのが良いでしょう。