「熱中症予防で、水分を摂りましょう!」というのは、多くの場合間違っています。そのせいで「熱中症」と呼ばれてしまっている「夏バテ」になる人が増えています。

「熱中症」は「脱水」

「夏バテ」は「水分過剰」

と、実は全く逆の病態です。夏に具合の悪いほとんどの人は「夏バテ」になっていて、その始まりは「ノドの渇き」です。

 一般的に熱中症は、高齢者や乳幼児のような脱水になりやすい人が、異常な暑さの中で動けない場合や、炎天下での長時間の運動によって生じる脱水症状のことです。ところが、実際の夏の救急外来には、血液データに異常が出るほどの脱水状態の人は、実は滅多にいません。

 これに対して、多くの人が水分を摂り過ぎて「夏バテ」になっています。救急車で病院へ運ばれてくる人のほとんどは、大量飲水、アイス・ビールといった冷たいものの摂取。夏の自然界の最低温度は井戸水の18℃と考えてください。

 

元々の体質や、抗アレルギーやホルモン剤の長期服用で胃腸が弱くなっている人です。

 つまり、「夏バテ」は、脱水症ではなく、大量飲水や、胃腸を冷やすことによる「胃腸障害」です。「気」を産生する場である胃腸が弱ることで、「気虚」になり、水がたまり「水毒」になります。全身の倦怠感、食欲不振、嘔気、めまい・鈍い頭痛、軟便などといった症状が出現します。日本の夏は、「湿邪」と「暑邪」が、胃腸の機能を落とします。

 

<夏の過ごし方>

①冷たいものは控え、旬の野菜を

 夏の暑さで疲れた時に、人工的に冷やされた冷たいものは、直後に胃腸の機能が落ちるため、「気虚」になり、30分後にはノドの乾きや心身のだるさが増強します。心身を適切には冷やせないからです。

 これに対し、トマトやキュウリ・トウモロコシなどの夏の野菜は、心身を適切に冷やし、30分後にはノドの渇きもだるさも軽快します。湿邪と暑邪を取り除いてくれるのです。このことは意識的に試すと、実感できます。

 ただし、それでも人工的に冷やされたものを摂りたい時は、冷たいまま胃に流れこまないように、口の中で温めてから飲み込みましょう。「ノドゴシ」の爽快感は夏バテの元凶です。

除湿・クーラーの使い方

 現在の日本の家屋は気密性が高く風が通らないので、「湿邪」の侵入を防ぐためにも除湿は適度に使いましょう。風通りが良くない部屋にいて倦怠感を感じる場合は、室温をあまり低くせずに、除湿をつけた方が良いです。

 眠る時に、暑くて付けたい場合は、タイマーをつけて、初めの30分〜1時間だけ、除湿をつけましょう。睡眠時に外気が体温より低くなると、体はその分、「熱産生」のためにエネルギーを使います。そのため、クーラーを低い温度設定のままにして寝ると、睡眠中にエネルギーを浪費し、翌朝疲れが取れていません。暑いなぁと思って起きるぐらいの方が、実は身体の疲れは取れています。大量の寝汗は温度の問題ではないので、適切な治療をしましょう。

 眠前2時間の飲食やアルコール摂取は水毒を招き、それが湿邪の影響で痰湿に変化しやすいため、夕食後の飲水は夏でも控えましょう。特に、人工的に冷やされた飲み物は、胃腸を弱めます。夏はとにかく冷たいものに要注意です!

<夏の漢方薬>

 夏バテ予防には136番清暑益気湯(セイショエッキトウ)。口渇を感じたら34番白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)でからだを冷やします。

 軟便や浮腫などの水毒症状が出たら、17番、115番・117番、嘔気を伴えば114番などの利水薬を摂りましょう。胃腸に湿邪が溜まった場合、食欲低下・胸の閊えには43番・14番、ノドの閊えには16番を。ひどいめまいは37番。湿邪にはネギ・大根も良いです。