<風邪をひかない方法>

 

 ちょっとした油断で、風邪をひいてしまった!という経験は、多くの方があるのではないでしょうか。寒い時に薄着で出かけてしまったり、具合が悪いのに無理をしてしまったりすると、人間は風邪をひいてしまいます。逆を言えば、風邪というものは、「気をつけれていれば」ひかないことができます。もちろん、もともとの体質もありますが、漢方治療をしていて、「風邪をひかなくなった」というのは、一番よく聞かれる言葉です。

 

 「風邪は万病のもと」と言いますが、風邪になるということは、自分の生活のどこかに、不注意があったということです。本当に「気をつけて」、食事や環境、労働と休息、休暇や趣味まで、ちゃんとそのひとつひとつに細心の注意を払えば、風邪はひかないことができます。

 

 例えば、コロナ禍である今年の冬は、電車の換気が常にされることになるでしょう。最近は電車内で大声で会話をする人をあまり見なくなりました。高校時代の部活や予備校の帰りに、友達と電車の中で語らい、大笑いした楽しい記憶がある僕にとっては、友達と話もできない車内はとても寂しい気持ちになります。若い人はほとんど死なず、70歳以上でも1万人に1人しか命を落とさない風邪のために、若者たちが楽しい体験をできないで過ごすことは、人間の幸福な生活にとって、どれぐらいの意味を持つのか、正直なところ疑問にも感じますが、社会全体の雰囲気と、大声を出しているのをみて気分を悪くされる方も多い時代なので、僕も極力電車に乗らない、乗ったらあんまりしゃべらない生活をしています。

 

 そんな飛沫すら生じない電車内の換気をすることで、新型コロナやインフルエンザに「感染するはずだった人が感染せずに済んだ人の数」と、「換気による寒さによって風邪をひいてしまった人の数」は、いったいどちらが多いのでしょうか。コロナ禍以前から、風邪について敏感だった僕の視点から見ると、後者の数のほうが多いと感じています。いま人類は、「飛沫」という限局的な部分にばかり目を向けていて、一番大切な全体が見えていないことに、大きな不安を覚えます。

 

 冬の夜に裸で寝そべっていれば、ものの1時間でほとんどの人が風邪をひきます。人間にとって、身体を冷やすということは、外敵の種類や量に寄らず、風邪を引き起こすのです。ですから、今年の冬に電車に乗る人は、マスクよりも寒さに気をつけましょう。朝、家を出るときに寒さを感じたら、遅刻してもいいから一度帰宅して、防寒をして、できれば葛根湯ぐらい飲んで、学校や会社に行きましょう。換気された電車の中に乗るときは、せめてその風下にいないように、風上に座るようにしましょう。換気をしている飲食店では、なるべく奥の席に座ったほうが、寒さに弱い人は良いでしょう。そういうことが「気をつける」ということです。

 

 でも、そんなこと考えると、外に出れなくなってしまう人は、人混みに出るのを控えて、大自然の中を、大好きな家族や友人と歩きましょう。

 

 そうは言っても、仕事があるから。という人は、仕事を変えることも考えると良いと思います。これから、世の中は大きく変化します。自分の理想の生活をしっかり思い描いて、細心の注意をはらって、その生活を実現するためのことを一つ一つやっていきましょう。その途中で風邪をひいてしまったら、漢方薬を使いましょう。

 

<風邪のときの漢方の使い方>

 

 まず、風邪の予防は、玉屏風散(別名:衛益顆粒)。マスク最大の副作用である口呼吸が癖になってしまい、鼻炎がひどくなってしまった人は、就寝時に口をサージカルテープで貼って寝れば、朝には鼻呼吸になって、肺でつくられる気の量が増えます。口をふさぐと言うと、不安になる人もいるかもしれませんが、人間はそんなに簡単には死なないようにできています。

 

<いざ、風邪をひいてしまったかも!という時>

 

 高齢者でない人の突発的な風邪、特にノドの痛い風邪は銀翹散。これは中国で一番売れている風邪薬。比較的新しい漢方薬のため、日本では保険適応がありません。そのためインターネットで銀翹散(クラシエのものがコスパ良いです)を購入するのがおすすめです。一家に一箱あって損はしません。冬には売り切れることも多いので、常備しておくと良いでしょう。僕はいつも銀翹散と葛根湯を携帯してます。

 

 そして、寒気のあるときは、1番の葛根湯。2000年以上前の薬で、後頸部に効果が集まるので、肩こりや後頭部痛にも効きます。朝家を出るとき、「今日はちょっと寒いかも」と思ったら気軽にとっても構いません。大切なことは「ひき始めの葛根湯」。葛根湯は長引いた風邪のときに使うと、津液という体内の水分を消耗させてしまうため、風邪を悪化させてしまいます。つまり、寒気を感じるタイプの風邪の初期から、発汗しきって寒気がなくなるまでの間に使う漢方です。27番の麻黄湯は、1番よりもだいぶ強く効きます。強く効くということは、間違えて用いた時の副作用も強いということです。風邪の初期で、すごい寒気があって、もともとの体力もある青壮年期の方の風邪に有効です。特にインフルエンザのように、突然の発熱で38度を超えるような風邪のときは、とてもよく効きます。小児科の先生で、気軽に麻黄湯を処方する医師も多いですが、汗をかきはじめたら麻黄湯ではなく、葛根湯に切り替えることをおすすめします。

 

 1番や27番を飲んで、汗をすっかりかき終わると、寒気がなくなります。それでもまだ風邪っぽいときには、9番の小柴胡湯をとるのが理想的です。あるいは最初から寒気のない場合は、最初から小柴胡湯。のどや咳の症状があれば、109小柴胡湯加桔梗石膏湯も良いです。

 

 寒気があってもなくても、高齢者以外の風邪には銀翹散を併用すると良いでしょう。銀翹散は飽食の時代以降の漢方薬で、飽食によるエネルギーが高い状態(実証)の人、60歳以下のエネルギーが高い状態の風邪に有効です。そういった風邪に特徴的な症状が、「ノドの痛み」です。ノドが痛いタイプの風邪には、寒気があってもなくても銀翹散を併用すると良いです。

 

 一方の、エネルギーが低いタイプ(虚証)の人、特に足が冷えるタイプで比較的虚弱体質の方は、早めに127麻黄附子細辛湯をとりましょう。それでも寒気が取れなければ葛根湯、寒気がなければ小柴胡湯を足しましょう。

 

 下痢や嘔気などの胃腸炎症状がある人は、114番柴苓湯。そこまではっきりとした胃腸炎症状がなければ、70番香蘇散は、妊婦さんの風邪でも気軽に内服することができます。また、小腸の状態は、精神との結びつきも強いので、香蘇散は、食欲低下や抑うつ気分などにも効果があります。

 

 風邪は大きく、気道系と食道系の風邪に分かれます。いずれにしても、まずは寒気がある時とない時の漢方薬を使い分けることができるようになることが、漢方をうまく使うはじめの一歩です。それがしっかりできれば、最初の3日間は、病原体の集まる病院へ行って体力を消耗することなく、風邪をこじらせることを防ぐことができます。

 

 風邪をひかない、ひいても重症化させないためにするべきことは、どうやったって接してしまう、あるいは体内に常にいる病原体に接しないようにすることよりも、風邪をひかないために「気をつけて」、未病の段階で、しっかりと自然の恵みである漢方薬を適切に内服することです。病原体から逃げ回ることには、限界があるし、そのことによって失うもののことを、今の社会は忘れています。風邪をひいてしまった地球の中で、ひとりひとりが風邪をひかない生活を獲得していくこと。それが今の地球に、その構成要員である人類に、もっとも求められていることだということを知って、実践してみてください。3日目になっても改善の傾向がみられない場合は、最寄りの内科を受診するようにしてください。