現在「かぜのしおり」を鋭意作成中です。1月後半には販売開始予定です。そのしおりの第四章が、紙面をだいぶとってしまったので、割愛してこちらにページをつくることにしました。ご興味のある方は、ご一読ください。

〜免疫力は高ければ良い?〜

 「免疫力を高める!」という宣伝を見ますが、免疫力というものは高ければ高いほど良いというものではありません。グローバリズムにも程度の問題(広がれば広がるほど良いわけではありません)があるように、すべてのものごとには、適度な規模や強度というものがあります。東洋医学では、それを陰陽バランスで考え、実際の治療に活用しています。

 「免疫」とは、「疫(病)を免れる」こと。「免疫力」があればあるほど、病気にならなくなりそうなものですが、そうではありません。免疫力が強すぎると、攻撃しなくて良いものを、必要以上に攻撃してしまうアレルギー(アトピー・花粉症など)や、自分自身のからだを攻撃してしまう自己免疫疾患(リウマチ・潰瘍性大腸炎など)になってしまいます。その究極形としてアナフィラキシーや、コロナ禍で問題になったようなサイトカイン・ストーム(*)といった状態を自分自身の免疫細胞によってひきおこし、命を落としてしまうこともあるのです。西洋医学では免疫力の亢進状態に対して、抗アレルギー薬やステロイドなどの免疫抑制薬を用います。「困った時のステロイド」とも呼ばれるほど、僕も救急医療の現場ではよく使っていました。

 誤解を恐れずに言うと、西洋思想は善悪があり、自然(ピュシス)を論理(ロゴス)によって制御する考え方が強いのに対し、東洋思想はピュシスを利用する考え方が多い傾向にあります。同様に西洋医学は「あるものをなくす」ことが得意な医学で、免疫を抑えることはできるのですが、「ないものを生み出す」つまり、免疫力や元気を高める実用的な薬は、まだないと言って良いでしょう。だからこそ、免疫を活性化するためのカゼ薬もないのです。一方の漢方薬は、免疫を高めるものも抑制するものもあるので、カゼ薬もたくさんあります。

(*)サイトカイン・ストーム(Cytokine Storm)とは、免疫系が過剰に活性化し、サイトカインと呼ばれる炎症性物質が大量に放出されることで、体に重大なダメージを与える状態を指します。この現象は、感染症や免疫疾患、薬物治療の副作用などで発生することがあります。

〜東洋医学で考える免疫力〜

 東洋医学では、免疫力が弱い状態(気虚)と、アレルギーなどの免疫亢進状態(血熱、肝陽上亢、陰虚火旺など)に対して、まったく逆の治療を行います。「気」というものは、食事と呼吸によってつくられます。この気は熱も産生するのですが過剰になると、体内に熱がたまり、攻撃しなくても良いものまでをも攻撃しはじめてしまうのです。この熱を産生する原因になる生活は下記の3つです。(花粉のしおり、食養生のしおり参照)

① 陰トロピー「べき・ねば」が強くなりすぎてしまうこと。

  「べき・ねば」はポテンシャル(仕事をする潜在能力)を高めてくれるので、気は上がるのですが、一方で熱を生じさせます。焦ったりイライラすると首から上が熱っぽくなり、頭に血がのぼります。

② 陰トロピーな食べもの(乳製品・牛鳥肉・香辛料など)やアルコールの過剰摂取

  ①のような状態の人の症状を助長し、アレルギーなどを助長してしまいます。

③ 遅い食事と遅い睡眠

  腎のリズムを狂わせ、体温を冷ます時間帯の夜に熱が冷やせなくなります。

 気虚の状態の人には、捕中益気湯や玉屏風散などの補気剤を。熱が体内に貯留しすぎてしまった場合には、15黄連解毒湯や50荊芥連翹湯などの清熱剤を用いながら、① 水と自然塩をとって血液循環を改善して尿量を増やすことで熱を排泄 ② 夏野菜や海藻類などの涼性の食べもの ③ 暗くなってからの遅い飲食や睡眠の改善 などを中心に治療をしていきます。

〜セルフモニタリングも免疫力のひとつ〜

「免疫力」というと、免疫細胞のことばかりを考える人が多いですが、本当の意味での「疫を免れる力」には、早く寝るなどの自己管理能力も含まれています。そのときに一番大切な免疫力は、セルフ・モニタリングの能力です。

 心の治療に認知行動療法という、自分自身を観察して、自分の行動や思考を調整する治療法があります。例えば、自分自身が不安になっていくきっかけとなる言葉(自動思考)が、自分の頭の中に浮かんだら、事前に用意しておいた対応方法を実行して、いつものパターンで不安になっていかないようにする訓練をする治療法です。少しでも早く自分の変化を感知するために、自動思考というシグナル(症状)をセルフ・モニタリングする訓練です。

 この認知行動療法は、心の治療だけでなく、すべての医療における基本的な考え方です。カゼの治療は、まさにこの認知行動療法の蓄積です。ノドが痛い、鼻水が出る、咳が出る。こうした症状というシグナルに対して、少しでも早く適切な対応ができれば、カゼはひかないことができるのです。その治療法を知ることは、免疫力を高めることです。

〜最低限は知っておいてほしいワクチンのちがい〜

 ワクチンについて、メディアなどでいろいろなことが言われていますが、これまで使用されてきたすべてのワクチンが一緒というわけではありません。特にこれからさまざまな疾患に対するmRNA(メッセンジャーRNA)のワクチンが普及したりすると、無数のワクチンが出現してくることが予想されます。

 効かないワクチンほど、毎年毎年打たなければならないですし、滅多にならない病のすべてにワクチンをしていたらキリがありません。部分ばかりに目を向ける西洋医学の手法は、全体を見失ってしまうことがよくあります。すべての物事は、陰陽のバランスでなりたっており、前述のように免疫力というものは特にバランスが重要なのですが、ワクチンによって一部の免疫力だけが上がってしまうというのは、強ければ強いほど全体のバランスを崩して他の病を作り出してしまうのです。特に実験段階のmRNAワクチンについては、まだまだ未知の部分があることは間違いないので、慎重に考えるべきです。

 一方で、ワクチンや抗生剤というのは、人類の寿命を伸ばした功績があるのも確かなので、良いワクチンは適切に選択することも大切なことです。だからこそ、これからの時代を生きるために、無駄なワクチンで我が子の命を落とさないためにも、ワクチンについてのある程度の知識を持っておいて欲しいと思っています。

 なぜ、毎年打たなければならないワクチンと、そうでないワクチンがあるのか。なぜ僕は「カゼのワクチン」が無駄だと言い続けているのか。mRNAのワクチンと、これまでの従来のワクチンがどう違うのか。ということも、科学的な観点と東洋医学的な観点から、できるだけ簡単に説明をしてみたいと思います(詳細はこれまでのブログをご参照ください)。

・ワクチンは記憶のある免疫のための薬

 まず人間には、記憶のない免疫(自然免疫)と、記憶のある免疫(獲得免疫)という二つの免疫があります。

 「記憶のない免疫(自然免疫)」というのは、からだに侵入してきた、まだ出会ったことのない(記憶されていない)ウイルスや細菌、あるいは自分の細胞がこれまでとは違う形(がん細胞など)に変化してしまったときに、まずはそれを見つけて、とりあえず素早く攻撃しつつ、それを記憶し、さらなる攻撃につなげるための指令を出す。という免疫反応の初期段階として重要かつ迅速な反応を起こすための免疫です。この免疫は、特にウイルス侵入の門戸になる体表面(皮膚・粘膜。特に鼻腔と小腸)に多く配備されています。カゼをひかない人というのは、この自然免疫の力が高い人で、ウイルスが侵入してもすぐにウイルスを退治しているのです。この20年ほどでやっとその存在が知られたこのタイプの免疫(自然免疫)を活性化する方法は、今のところ漢方薬などの自然の力を利用したものしかありません。

 一方で、ワクチンというものは、「記憶のある免疫(獲得免疫)」システムを利用するものです。発病をしないように処理した病原体を、ワクチンとしてあらかじめ接種しておくことで、からだに記憶をつくらせておき、接種後にホンモノの病原体が来ても、記憶があるので、その病原体を比較的早く倒すことができるのです。人類初のワクチンは、ジェンナーが開発した種痘ワクチンで、このワクチンは再現性があったので、西洋医学の始まりと言われています。今から400年前に、人類は初めて人間の獲得免疫というしくみを発見しました。この免疫を担う細胞は、主に粘膜などの体表面ではなく、その内側やリンパ液・血液の中に配備されています。ですから、ワクチンは感染を予防することよりも、重症化を予防するためのものなのです。

 例えば、麻疹(はしか)や風疹(三日はしか)といったこれまで接種されてきたワクチンは、生涯で一度打てば、からだがそのウイルスを記憶してくれるため、その後に同じウイルスが来ても、すぐに攻撃をして、ウイルスが増えて発症・重症化する前にそのウイルスを体内から排除することができるのです。

 ところが、インフルエンザや新型コロナというウイルスは、一人の人に罹って、次の人にうつる間に、そのウイルスの形が変わる(変異)こともあるほど、変異のスピードが早いので、以前かかった記憶が役にたたなくなってしまうことがほとんどです。だから、ワクチンを打ったのに、あるいは一度かかって記憶ができているはずなのに、数ヶ月もしないうちに、また罹ったりすることがあるのです。だからこそ、インフルエンザやコロナのワクチンは毎年うつように勧められているのです。つまり、これらの「カゼ」のウイルスは変異しやすく、記憶が役に立たない。つまり記憶免疫を利用しているワクチンという手法は、そんなに役に立たないのです。コロナ禍の当初から、変異しやすい新型コロナの感染拡大予防には、ワクチンの有効性はないだろう。とお伝えして来たのは、こうした科学的な理由からです。

 僕はすべてのワクチンに対して反対しているわけではありません。自分の子どもたちにも麻疹・風疹・日本脳炎など、歴史が長く、その病原体が変異しにくく(つまり、記憶の形成が意味をなすもの)、罹ると重症化につながる可能性もそこそこあるウイルスに対するワクチンは、接種させています。ただし、子宮頸がんワクチンのように歴史が浅く、かつ子宮頸がんになる可能性がとても低いものに対しては、接種をさせていません。

・mRNAワクチンはこれまでのワクチンとは別物

 この点は、特に重要です。これまでのワクチンは、皮下に弱毒化、あるいは無毒化された病原体を皮下に接種することで、接種部位だけで反応を起こすものでした。ところが、mRNAワクチンというものは、全身の細胞で無差別に目的のウイルス蛋白をつくらせ、その細胞を攻撃する抗体(ミサイル)をつくる薬です。例えば、その蛋白が血管の内側の細胞に発現してしまったら、血管の内側の細胞が破壊され、動脈解離や血栓というものができて、脳梗塞や心筋梗塞、不整脈や弁膜症といった、循環器系の不調が起こります。

ワクチン・マスクよりも大切なこと

 おそらく日本一狭いつゆくさ医院では、受付スタッフも含め、コロナ禍当初から、感冒症状がない限り、マスクもワクチンもしていません。これはマスクやワクチンよりも有効な予防法・治療法があることを知っていたからです。玉屏風散での予防と、怪しいときの銀翹散の二つを積極的にとっていました。コロナ感染の患者さんも診察をしていたので、微量の感染はおそらくあったと思いますが、僕も受付スタッフも院内感染を疑わせるような発症をすることはありませんでした。つまり感染はしていても発症する前に自然免疫でウイルスを駆除できたのです。院長の僕自身も、コロナ禍以前より体調と食事睡眠の管理に気をつけていたこともあり、ここ3年程度カゼというカゼはひいていません。仮に油断して発症してしまっても解熱剤や免疫抑制剤などを使わずに、銀翹散や双黄連、十虎湯などを適切に使えば、後遺症や副作用で長期間悩んでいるような患者さんは、当院には一人もいません。また、コロナもワクチンも、その後遺症の治療薬が西洋医学にないのも事実です。元気や免疫力を高めてくれる(無から有を生み出す)治療は、漢方薬の専門分野と言っても過言ではありません。

 そもそもカゼというのは、ワクチンを何回も接種して、マスクを何重にもつけたとしても、寒い中や暑い中に裸でいれば、あっという間に誰でもひくものです。世の中には無数のウイルスが常に存在し、常に変化しています。けれど体調を適切に管理していれば、カゼはひかないのです。ちなみに当院に通院される患者さんから聞かれる言葉は、「カゼをひかなくなった」ということが一番多い感想です。

 カゼというものは、ウイルスに接触したとかしないとか、抗体を持ってるとか持ってないとか、そういう「自分の外側」からの物質以前の問題がとても大きいのです。いくらマスクやワクチンを徹底しても、新しい西洋医学的な治療が開発されても、新型コロナウイルスはなくならないし、本質的な解決にはなりません。コロナもインフルも花粉もこれから一生涯、世の中にはあり続けるでしょう。私たちは外側を変えることよりも、人類の無知と叡智を正確に知り、現代社会の生活習慣(特に遅い食事と睡眠など)を整え、かぜをひかないように気をつけて、自分自身の内側を変えることが一番重要なのです。その過程で漢方薬という自然界からの恵みを利用することも大切ですが、COVID-19に限らず、どんな病でも薬で治すのは本質的な解決にはなっていません。病になる以前の生活よりも、より健康的な生活をしなければ、本当の意味で病が治ることはないのです。