熱中症について
「熱中症」の原因として温暖化や脱水が問題視され、「こまめな水分補給を」と言われていますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。水道・コンビニ・自動販売機が配備され、私たちの社会は、いまだかつてないほど水分が取りやすい社会です。それにも関わらず、なぜ脱水が原因とされる熱中症が、近年増えているのでしょうか。じつは俗に言う熱中症の大部分は、脱水症ではなく、冷たいものの取りすぎで起こっています。
最初にこのことに疑問を持ったのは、救急医療の現場に救急車で運ばれてくる熱中症の患者さんに、脱水のデータが出る人が、ほとんどいなかったことを目の当たりにしてからです。さらに、問診を通じて、冷たい水やコーヒー、アイス、ビールなどを大量にとっていたという患者さんがとても多いことがわかりました。実際に、軽症の熱中症と診断される数が多いのは23歳から64歳までの脱水症になりにくい元気な世代です。
日本救急医学会における熱中症の定義は、「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」とされ、Ⅲ段階の分類のⅠ度とⅡ度の症状(めまい・大量の発汗・こむら返り・頭痛・嘔吐・倦怠感・集中力の低下など)は、東洋医学における「気虚」やそれに伴う「血虚」の症状と一致します。
近年熱中症が増えている最も大きな要因は、熱中症予防に水分をとりましょう!というスローガンを鵜呑みして、「冷たい飲みもの」をガブガブと取ることに原因があるのです。冷たい飲みものは、気を産生する場である胃腸系を弱め、気虚を招きます。すると、動かす力である「気」がなくなって、めまい・食欲不振・頭痛などが生じ、ひどい場合には血虚になってこむら返りも起こします。水をたくさん取れば、水毒(水滞)になり、痰湿が増え、嘔吐や下痢につながっていきます。つまり、熱中症のほとんどは胃腸が弱ることによる気虚・水滞による「夏ばて」なのです。
このことは簡単に実感することができます。冷たい清涼飲料水やアイス(これらは糖分も多いので瘀血も助長します)、あるいは水などをガブガブと飲むと、30分後ぐらいになんとも言えないだるさと暑さを感じることができます。その一方で、キュウリやトマトといった夏の涼性の野菜を食べると、食べているときは感じられなくても、30分後ぐらいに体内の妙な熱感がとれていることにも気づけます。漢方薬では、石膏などの体を冷やすもの(とくに34番白虎加人参湯)などが体を冷やしてくれるので、熱中症予防に用いられます。
従来から言われている熱中症の概念が、西洋医学的にあまりうまく説明されていない理由には、冷たい水分摂取による「気虚」の病態を認識する術が未だに確立されていないからです。
しかし、一方で温度が高くなると水分摂取量も増え、夏バテが多くなることも事実です。機密性が高くなった現代生活では適度な温度調節も必要です。ただし、寝ている間にクーラーをつけっぱなしにすると、睡眠中の熱産生が増えるので身体は疲れます。寝つきの1時間程度でクーラーを消して、汗をかいて起きるぐらいが、深い睡眠がとれた証拠だと思ってください。
こどもには冷たいものをなるべく与えずに、炎天下の中では常温の水分か井戸水(18℃程度)のような自然な温度の水をとらせましょう。飽食の時代は飽水の時代でもあるのです。熱中症はその多くが、冷たい水分の取りすぎによって起こります。夏は梅こんぶ茶やミントティー、味噌汁などのミネラルが多く含まれている冷たくないものをとるようにこころがけましょう。
「ビールはのどごし!」というのもわかりますが、じつはそれもテレビコマーシャルの影響です。本場ドイツでは美味しいビールを味わって飲むのが文化なので、それほど冷やすことはしません。のどごしは始めの一口程度に控え、その後はなるべく控えましょう。
ことほど左様に、世の中で言われている健康法には常に疑問を持つ姿勢が必要です。特に水や熱に関しては、現在の科学はまだまだわかっていません。「こうすれば健康!」という話はほぼ嘘だと思ってください。世の中には万人が健康になるための画一的な法則はほとんどありません。健康は一人一人にとって違うもので、信用できる一番の指標は、自分の心身に起こる症状だということを忘れないでください。 冷蔵庫で冷却するということは、自然の摂理の中で生きている人間のバランスを崩してしまうのです。
マスクは無論のこと、夏はするべきではありません。