東洋医学での花粉症の考え方は、免疫力がすごく弱った状態である「気虚」によるものと、免疫力が過剰に強まってしまった「実熱」によるものがあります。熱がたまると粘膜面での炎症反応が強くなり、目・ノド・鼻・皮膚などの体表面がかゆくなります。そこに水の貯留による「水滞」が加わると鼻水やむくみという症状が生じ、環境の寒さから来る冷えである寒邪が加わるとくしゃみ、さらに、甘いものや血虚に伴う冷えによる「瘀血」といった状態が重なるとそれぞれの症状が重症化します。

 

 単純に言うと、「熱」がたまると「かゆみ」、「水」がたまると「鼻水」です。

 

 この「熱」と「水」の問題の両方を改善するのが「腎」です。「腎」は西洋医学でいう腎臓にとても近いもので、水の管理や造血機能、生殖能力などに関与し、生命力の源とも言える臓器です。腎の力は先天の精(おそらく母親由来のミトコンドリアに依存)によるところが多いので、人にもよるし、加齢に伴う変化も大きいので、短時間で修復できるものではありません。そのため、花粉症の予防としては、腎の治療を遅くとも1月ぐらいから治療をすることが必要なことが多いです。

 

 漢方治療には、表面的な症状を治療する「標治」と、根本的な治療をする「本治」があります。腎の治療というのは、すべての病の最終目標と僕は考えているのですが、その本治が間に合わず、花粉症の症状を発症してしまった場合は、標治をしていきます。その標治でも間に合わないほど症状が強い場合は、西洋薬の対症療法を一時的に併用する。という形の治療が、僕の考える最善の治療です。

 

 それでは「熱」と「水」について考えていきましょう。

 

<熱の原因>

 

 粘膜面の免疫が過剰になってしまう原因は、体内に蓄積された「熱」が原因です。この「熱」を生じてしまう原因としては、アルコールや動物性脂肪、辛いものの過剰摂取があげられます。特に牛乳・ヨーグルト・チーズなどの毎日とるような乳製品の摂取による「熱」の蓄積が現代人にはよく見られます。乳製品によるじんま疹は、前腕から手背に出ることが多いので、そのような湿疹がある方は、花粉症以前から乳製品の摂取を控えましょう。また、牛・鳥豚(豚はもともと平性なのでやや良い)などの動物性脂肪も、温熱性の食べもので熱の原因となります。魚はどうかとよく聞かれますが、牛鳥豚といった家畜化された動物たちは、本来のたべものや生活をしているものが大変少なくなってしまいました。日本のトウモロコシの7割はアメリカからの輸入で、そのアメリカの99%は遺伝子組み換えのトウモロコシです。つまり、日本にあるトウモロコシの少なくとも7割が遺伝子組み換えのトウモロコシなのです。ところが私たちの食卓にそれらが見られないのは、家畜の餌として与えられているからなのです。本来はトウモロコシを食べない牛鳥豚は、安価で高カロリーのトウモロコシを食べることによって、残念ながら本来の身体からは、だいぶ遠い性質のものになってしまいました。そもそも、1kgの肉を生産するためには、6〜20kgの穀物が必要とされるので、肉が野菜より安いというのはとてつもなく異常な状況なのです。それは遺伝子組み換えの作物によって人件費を削減することで実現されてきたわけですが、それは持続可能な農業ではなく、アメリカのコーンベルトの地下水は、あと10年程度で底をつくと言われています。

 

 話を花粉症に戻しましょう。

 

 カレーやキムチなどの辛いものを年中とっている方は、花粉症の症状が出ている時期だけでも控えましょう。食養生の正しさは、自分の心身の症状を見ることが大切です。辛いものや乳製品がすべての人にとって悪いわけではありませんが、湿疹や過食、花粉症などのアレルギー症状が出ている人は、一度それらの摂取をやめて、症状が治ったらまた再開しても構いません。再開によって症状が再発したならば、残念ですが、もう一度辛いものをやめてください。

 

 また、ストレスによっても熱は生じます。イライラしたり、怒りを覚えた時に、からだがカァーっと熱くなるのを実感した方も多いのではないでしょうか。そうした心の熱は、自分が設定した「こうあるべき!」という設定から現実からずれた時の摩擦熱によって生じます。つまり裏を返せば、「自分は正しい」という思いがあるのです。そうした事態が訪れた時には、自分は自分が正しいと思っているから怒っている。世の中にはいろんな価値観があって、それは時代や文化によって変化するものだ。と自分自身を修正しましょう。そして、自分の正しさを、他者や自分自身に押し付けることなく、「まぁいっか」と自分の価値観に固執しないことができればストレスは生じません。「あの人はここが悪い!」とか「私はなんでこんなにだめなんだ!」と自分が正しくありたいという思いに固執するとストレスを感じ熱が生じます。大切なことは、ストレスというものは、外部環境が作り出しているものではなく、自分自身がつくりだしているという自覚です。ストレスを感じたら、他人や環境を変えるのではなく、自分自身を変えるという姿勢を忘れないようにしてください。

 

 さらに、「熱」は腎によって産生される「陰」によって冷やされます。「陰」は夜の睡眠によって産生されるものなので、遅い睡眠は陰虚を招き、「熱」が体内にたまる原因になります。また、遅い時間(19時以降)の糖質の摂取は腎を弱め、「熱」の貯留につながります。

 

 腎は更年期以降、衰弱して産生量が減っていくものです。

 

 西洋医学では、花粉の量が蓄積することによって、ある時点で発症する。などということが、まことしやかに言われていますが、それは間違いです。なぜなら、花粉症は食養生や漢方治療によって改善・治癒できるからです。一般的に、一度花粉症を発症すると、西洋薬による対症療法を続けて、根本原因である食をはじめとした生活改善をしないために、年々症状がひどくなっていく人が多いのです。花粉症発症の本質は、年齢にともなう腎の衰えと「熱」がたまりやすい現代生活にあります。それにも関わらず、若いころの生活、つまり動物性脂肪の過剰摂取、遅い食事、遅い睡眠、ストレス過多などの自然の摂理からのズレを続けることで「熱」をためてしまうことで、花粉症は悪化してしまうのです。

 

<熱の症状>

 

 花粉症の症状としては、目やノド・ハナなどの粘膜面の炎症がありますが、それ以前から熱が原因となる症状としては、入浴などの熱が加わったときに悪化するじんま疹や、ベルトなどの圧迫部位のかゆみといった皮膚症状があります。また、熱がたまると過食ぎみになり、鼻血が出たり、歯茎が腫れたりします。女性では月経前症候群(生理前のイライラや過食などの不調)がひどくなるので、花粉症の到来前にそのような症状を改善しておくことが、花粉症の重症化を防ぎます。

 

<熱の漢方治療>

 

 まず、体内に生じた熱を冷ますのは、腎による陰を増やす滋陰薬である87六味丸が基本処方です。そこに足の冷えをとる附子(トリカブトを弱毒化したもの)を加えた7

八味地黄丸、さらに夜尿・尿道炎・前立腺炎や膝の痛みをとる牛膝、車前子を加えた107牛車腎気丸を用います。

 

 熱をとる基本の漢方薬は、15黄連解毒湯、便秘がある人は113三物黄芩湯です。漢方は構成生薬の数が少ないほど効果が高くなるので、熱だけを取るのであれば15が一番強く即効性がありますが、効果が強いだけに、毎日内服することが、すべての人に良いわけではありません。過食がひどいときや、鼻血が出た時に屯用的に使うのが一般的です。

 

 この15に、肌や粘膜の栄養分である「血」を補う71四物湯の作用が含まれたものが、57温清飲です。さらに直接的に粘膜面の炎症反応を除去する解表作用が加わったものが、50荊芥連翹湯、さらに心の熱を冷ます作用が加わったものが80柴胡清肝湯です。80は上半身のリンパ節腫脹やしこりなどに効果を持つ漢方なので、咽喉部や頸部などの上半身のリンパ節がよく腫れるような方には特に向いています。また月経前症候群の過食に対する治療薬は67女神散ですが、花粉症の目のかゆみなどに用いるにはやや弱いので、花粉症の症状が出てくる前は、本治である腎の治療薬と併用して月経前症候群を治療しておきながら、症状が出てきたら50や80などと67を変更していく治療が良いでしょう。

 

<水の原因>

 

 水がたまる原因としてとても多いのが、コーヒーの過剰摂取と自然塩の摂取不足、遅い時間の食事、歩行不足です。ブラジル生まれでコーヒー好きの僕としては心苦しいのですが、コーヒーにはやはり他の食べものとは違う、カフェインだけでは説明のつかない中毒性があります。それは近年急速に増えたコーヒーショップの数からもうかがえることでしょう。身土不二の原則から、南国の植物であるコーヒーは身体を冷やすので、特に冬から春の摂取に関しては、少し控えた方が良いです。

 

 とはいえ、コーヒー好きからすると耐え難い苦痛でしょう。

 

 治療において、「べき・ねば」といった感情で、自分を管理しようとするとあまりうまくいきません。そこで「たい・いい」といった喜びの感情が生まれる行動で食養生をするとうまくいきます。そこで、冬の時期や花粉症の時期には、コーヒーの代わりに「塩湯」を使うことをおすすめしています。

 

 まず、寒いからホットコーヒーを飲もうという習慣が間違っていることを実感しましょう。からだを冷やしてしまうコーヒーの代わりに、からだを温める塩をとることによって、コーヒーを飲んだ30分後にからだが冷えていることを実感することができます。とくに、腎によって足先の冷えが改善することを感じることができます。さらに、にがりを含んだ自然塩は腎を栄養し、老化を防ぐだけでなく、にがり成分による利尿作用があるので、鼻水やむくみを取り去ってくれます。

 

 コーヒーにも利尿作用があるじゃないか。と言われるかもしれませんが、からだの浸透圧に深く関与する塩には敵わないのと、からだをひやすコーヒーは膀胱を収縮させ頻尿になるのに対し、自然塩はからだを温め、膀胱をゆるませ、その容量を増やすので頻尿にはなりません。とくに、寒い時期に頻尿になりがちな人は、普段からコーヒーを飲まなくても、塩湯をとることをおすすめします。塩湯療法の最大の効能は、足の冷えの改善と、むくみや鼻水、動悸、不安などの朝の不調の改善です。朝に鼻水が出る人は、寝る前に小指の第一関節ほどの自然塩に、おいしいと思う程度の濃度になるようにお湯を加えて飲みましょう。お酒を飲む人は、就寝1時間程度前に塩湯を飲んでおくと、就寝前の排尿時の尿量が増え、夜間尿などの予防になります。

 

 アルコールは熱にも水にも害を及ぼすので、残念ながら花粉症にはもっとも良くないものですが、アルコールが好きな方は、他の方以上に自然塩の摂取を心がけましょう。実は、居酒屋のメニューというのは、歴代の酒好きの精鋭たちが野性的な感覚に基づいて自然淘汰してきた、腎にとってとても良いメニューになっているのです。

 

 まず、炭水化物をはじめとした糖質を含むメニューがあまりありません。僕は夕食のみの糖質制限を推奨していますが、その際にもっともよく見られる効能は夜間尿の消失です。夜間尿がある場合、漢方薬では107を内服して腎を治療します。夜間の糖質を取らないことによって、夜間尿がなくなることは、腎の機能の改善を示すのです。

 

 現代人の夕飯は遅すぎます。人間の身体の歴史は、電気のある現代生活のような時代はあまり長くありません。極端な話でいえば、キャンプのような生活を想定すると、冬の時期には17時ぐらいには夕食が終わっている生活をするのが自然のリズム、言い換えれば月と太陽のリズムに適応した暮らしなのです。そうした生活をしてきた人類の生活からすると冬の19時から夕食をとるだけでも大きなズレになります。ましてや22時に帰宅してからの食事に、活動のためのエネルギー源である糖質を摂取することは、全身の司令塔である腎の機能を低下させてしまうのです。夜にどうしても食事がしたい時は、豆腐や海藻といった腎に良い海産物で涼性のものをとると良いでしょう。僕は、塩湯にとろろ昆布や、干し海苔のようなものを溶かして食べることが多いです。

 

 夜、遅い時間のラーメンや牛丼を我慢して寝ようとすると、「腹が減って眠れない!」という方がいらっしゃいます。そういう方は「べき・ねば」よりも「たい・いい」が食養生には重要だという原則を思い出してください。つまり、「我慢して寝るべき!」と思って床につくと、からだもこころも緊張して眠ることができなくなってしまいます。ところが、「あぁ〜明日の朝は何を食べようかなぁ〜あれが食べたいなぁこれが食べたいなぁ食事が毎日食べれるなんて、なんて幸せなんだろう、ありがたいなぁ〜」と思っていると、からだもこころもゆるんで、ゆっくりと良い睡眠が得られます。