つゆくさラジオ (https://podcasters.spotify.com/pod/show/tsuyuraji)で解説したものに、加筆をしました。大切な食養生の話なので、陰陽トロピーの回も合わせて聞いてみてください。

食養生のプレイリスト

一物全体とホワイトデビル

 逆に陽トロピーな食事というのは、純度が低いものです。例えば、自然食品は自然法則のあるがままに必然的なバランスを保持したものなので、陽トロピーな食べものと言えます。また、ひとつの食べものの部分だけを食べると陰トロピーになってしまうので、全体のバランスをそのまま食べると、より自然なままの陽トロピーな食事になります。「一物全体」というのは、食べ物を一つの全体として食べることで、その生命のバランスがそのまま自分の体の中に入ってくるという、マクロビオティックの考え方のことです。

 例えば、白米と玄米の違いは籾殻がついてるかいないかだけなのですが、玄米は土に植えると芽を出して子孫を残すことができるのに対し、白米は植えても芽は出ないため、子孫を残すことができません。そのように玄米の方が、より陽トロピーで自然なバランスを持っているので、基本的にはそういった自然な生命全体を摂った方が、人間の体のバランスは崩れにくいと考えられます。実際に籾殻には、カルシウムやタンパク質なども含まれていることがわかっています。白米は陰トロピーな食べものなので、エネルギーも豊富にとれ、元気がでますが、一方で中毒性も高く、とりすぎると体重も増え、糖尿病になってしまうことも周知のとおりです。糖質に関しては、量や質の問題以上に、摂取する時間との関係も大きいのですが、それは後述いたします。

 「一物全体」を陽トロピーの代表だとすると、陰トロピーの代表は「ホワイトデビル」です。ホワイトデビルというのは、精製された白い食物のことで、代表的なものには白砂糖、小麦粉、食塩、白米などがあります。「一物全体」とは逆に、精製されることで純度が高く(陰トロピー)なり、不自然にポテンシャルが高められた極めて陰トロピーな食べ物と言えます。

 例えば、白砂糖は非常にポテンシャルが高いので、低血糖になって瀕死状態の人には即効性があり、これ以上ない良薬になります。しかし、ポテンシャルが高いが故に、白砂糖を取り続けてしまうと、陰陽バランスの歪みを修正することが難しくなるため、瘀血(*注釈)をはじめとした様々な不調へとつながってしまいます。

 「一物全体」と「ホワイトデビル」のどちらが良い悪いではなく、「陰陽の法則」と同様にそれらの特性と自分自身の状態を理解した上で、バランス良く食事を選んでいただくことが大切です。とはいえ、通常の現代生活のうえで問題となるのは、ホワイトデビルのほうが大量生産できるため、安価になっている。ということです。手間がかからず、安価なものへ食事が移行しやすいことから、現代人の食事は陰トロピーな状態になっており、すなわち、こころもからだも陰トロピーに傾きすぎて、熱っぽくなっているのです。そのため、食事ではなるべく陽トロピーなものを摂取するように意識することが、とても大切になってくるのです。

 

*瘀血(おけつ):血の流れが悪い状態のこと。冷えや白砂糖、鎮痛薬、ステロイドといった薬剤の長期投与によって現れる証。頭痛・胃痛・生理痛・肩こり・シミなどの原因になる。

 

陰トロピーな現代の食事

 陰トロピーな食べ物は、近年問題になってきているさまざまな病に関係してきます。特に、アレルギーなどの免疫疾患や月経困難症、イライラなどの感情障害にも影響してきます。

 イライラすると熱っぽくなると書きましたが、気が高まることによって生じる熱は、人間の免疫力にも影響します。「免疫力を高める!」とうたっている商品を見かけることも多いですが、免疫力というのは強すぎても弱すぎても良くなくて、そのバランスが重要なものです。この辺も陰陽理論が成立しているんです。陰トロピーな食べものに偏ったからだになっていると、免疫も強くなり過ぎていると、からだの中で本来攻撃しなくていいもの、攻撃してはいけないものを攻撃しすぎてしまいます。例えば、人間にとって生命の危機には関与しないスギの花粉に対して、免疫力が強すぎることによって、攻撃しすぎてしまう病が花粉症です。逆に、免疫力が弱い状態だと、細菌やウイルスなどの侵入に対応できなくなります。

 ここで一つ重要なことは、インフルエンザやコロナなどの感染時に高い発熱をするのは、若い世代が多いという事実があります。これは、このようなウイルスに対して、しっかりとした免疫力をもっている若い人のほうが、早く高い発熱をしてウイルスを早く駆除できる。ということです。発熱するのはウイルスが出しているように考えている人もいますが、そうではありません。発熱を出しているのは、免疫力のある人間側のほうなのです。ウイルスが体内に侵入して、増殖するよりも前に、免疫細胞を活性化してウイルスを駆除するために発熱をしています。ところがCOVID-19で若い人が重症化してしまう場合には、サイトカインストームと言って、自分のために人間が惹き起こした炎症反応を、自分自身で止められなくなってしまった状態でした。肥満の方がこの状態に陥りやすかったのは、体内の熱が大きかったためだと考えられます。つまり端的に言うと、免疫力が高すぎるか、低すぎるかという指標は、この体内にたまっている熱で判断することができます。

 

免疫力の高い状態と低い状態の判定基準

 免疫力が低い状態というのは、気や栄養(血)が足りない状態と考えられます。一方で、免疫力が高い状態というのは、心身に熱のたまった状態です。

 気は呼吸と食事によってつくられるので、気が少ない「気虚」の場合は、元気や食欲がなく、声が小さくなります。喘息や下痢と便秘を繰り返す、グルテンアレルギーなどの症状が出て、呼吸器系のカゼや、胃腸系のカゼになりやすい状態、つまり免疫力の低い状態になっています。この時は、玉屏風散をはじめとした補気剤を使うことで、カゼもひきにくくなり元気も出ます。あるいは、各組織や臓器の栄養である「血」が不足している「血虚」の状態であると、髪・肌・爪などが弱くなり、季節による改善もみられますが、主に冬に状態が悪くなることが多く、症状が一日中あまり変化がないことが特徴です。

 逆に、免疫力が過剰に高い状態というのは、熱が体内に蓄積した状態なので、からだやこころに熱が加わった状態になると、症状が増悪するというのが一つの特徴です。

 例えば、お風呂に入った時などからだが熱を持った時に、皮膚や目などの粘膜が痒くなるというのは、からだの熱が高い状態、つまり免疫状態が亢進してる状態です。そういう状態の時に、先述した陰トロピーな食べ物を摂ると、免疫力がさらに強くなってしまって、さらに熱を生じてしまい、最悪の場合には、サイトカインストームが起こってしまいます。

 また、現代生活では、こころの熱も溜まりやすくなっています。代表的なものに「べき・ねば(~すべき、~せねば)」という陰トロピーの思考があります。そのような考えが強まると、体がカッと熱くなります。

 このような過剰な陰トロピーになっている人の臨床上の特徴としては、肘から手背(手の裏側)辺りまで手湿疹が出る人の中には、動物性タンパク質(とくにヨーグルト)を摂り過ぎている人が多いと言うことができます。慢性鼻炎の食養生の原因として一番多いのは、乳製品を毎日とっている方が多く、特に子どもの場合には、給食の牛乳やヨーグルトの摂取を控えるだけで、アレルギー症状が治ってしまう子も少なくありません。自分の周囲に比べて、動物性タンパクをそんなにとっていない人でも、もともとの体質が血虚で肌が弱かったりすると、少量の熱でも入浴後の症状の悪化を認めることもあります。そのような症状に対しては乳製品や卵をはじめとした動物性タンパク質を控えて、黄連解毒湯を中心に、さらに血虚もあれば柴胡清肝湯などの漢方薬を服用するとだいぶよくなります。症状が手の平側に出るのは、精神的なものが関与している方が多いです。その場合には加味逍遙散や竜胆瀉肝湯などが効果的です。

 乳製品や白砂糖は、現代を代表する陰トロピーな食事で、かつ毎日摂取する人が多いため、自然生薬である漢方薬の内服だけでは、太刀打ちできないほど強いエネルギーを持ったものです。そのため、漢方薬の内服とともに、適切な食養生を平行しないと漢方薬の効果も出ないのです。