日本人と中国人しかしないと言われていたマスクも、最近では西欧人でもマスクをしている人が増えてきました。しかし、これまでの多くの実験結果では、マスクには感染予防効果がなく、アメリカの疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)も、「症状のない人がインフルエンザ予防のため外出先でマスクを着用することは推奨しない」としています。人間の体は進化の過程を経て、構造的に最適化されてできています。東洋医学的には、免疫力の源である「気」を産生する肺の呼吸を、マスクの着用によって妨害することは、免疫力を弱めることになります。健康であれば「気持ちがわるい」と感じるのが正常な野性なのです。では、感染予防のために、どうすれば良いのでしょうか。
ヒトは哺乳類の中で唯一、鼻呼吸と口呼吸をする動物です。多くの動物は、鼻から肺への気道と、口から胃への食道とはわかれていて、人間のように口と鼻はつながっていません。二足歩行と言語の発達によって、ヒトの気道と食道はつながりました。
鼻(鼻腔)は、動物にとって小腸に次ぐ免疫組織で、ウイルスなどの侵入を感知すると、免疫系を活性化しウイルスを除去します。また湿度や温度も調整して体内に流入する空気を調整します。ところが、口呼吸で入った空気は扁桃などの免疫組織を通過はするものの、もともと空気の通り道ではないためウイルスは直接ノドや肺に流入し、ノドや口が乾燥し、風邪をひきやすくなります。漢方薬で玉屏風散ぎょくへいふうさん(あるいは衛益顆粒えいえきかりゅう)などの漢方薬を内服すると、肺の気、つまり免疫力が上がり、鼻づまりが治って鼻呼吸がしやすくなることでインフルエンザの感染を予防します。家族の誰かがインフルエンザになっても、この薬を飲んでいると呼吸器系の風邪がうつることはほとんどありません。
つまり鼻呼吸がしっかりできていれば、風邪をひく可能性がとても低くなるのです。ところが、現代の子供たちは、肺の気や口輪筋の力が弱いため、口呼吸になってしまう子どもがとても増えています。現在のインフルエンザの蔓延は、そうした背景もあると僕は考えています。
たまに加湿のためにマスクをしているという方がいますが、マスクが湿るということは口呼吸になっている証拠です。就寝中にマスクをすると、鼻呼吸がしにくいので、口呼吸になり、翌朝のどが乾燥しています。さらに肺で産生する気も弱くなるので、慢性的な鼻づまりの状態になってしまうのです。いびきをかく人も口呼吸です。
どうしても口呼吸をしてしまう人は、普段から「気持ちいい鼻呼吸」を心がけ、口輪筋が弱い子どもは「あいうべ体操」をするのも良いですし、就寝時に口をサージカルテープでふさいでおくのも効果的です。
唯一のマスクの効用としては、飛沫感染を防ぐということは挙げられるので、自分自身が咳をしている場合は、他人に迷惑をかけないために着用をしましょう。また花粉症に関しては、マスクがないと耐えられないほどであれば、ある程度の効果が得られます。