前回その1で言いたいことをまとめると、軽症でも重症でも西洋医学にできることはそんなに多くなくて、検査もあんまり意味がないから、風邪をひいたら自分はコロナだと思って自粛して、病院に行くのは極力、3日以上発熱が続いて、呼吸が苦しくて眠れもしないほどになったらにしましょう。ということです。

 今回はそうなる前に、どうしたらいいのか。という話です。

 まずCOVID-19について中国で発表された論文を和訳されたものが公開されました。

 http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/covid19_kanpou_0319.pdf

 ここでは「温病(うんびょう)」(*注釈参照)という日本の漢方医学にはない「湿熱」という概念が盛り込まれています。それは、飽食の時代特有の体内にこもる熱や脂のようなものが原因で起こる病だと考えてください。

 基本的には、一般的な感冒の治療と大きな差はない(参照:「感冒」の漢方について)のですが、特に重症化した際は、湿熱が関係しやすく15番黄連解毒湯や57番温清飲を中心とした清熱剤として50番荊芥連翹湯や80番柴胡清肝湯、不眠や咳などに使う91番竹如温胆湯が用いられています。

 これらを踏まえた上での対応方法は下記のようなものです。

<予防>

 玉屏風散:肺の気を高めるもので、気道系の免疫状態を調整して慢性鼻炎や慢性咳嗽などを治す。毎日とっても問題ないもので、自分の鼻の症状や、外出先などに合わせて内服量を調整すると良い。
      肺は汗とも関係するので、汗をかきやすい人や、肘膝のアトピーにも良い。

 補中益気湯:肺や脾胃(胃腸)での気の産生を高める。風邪をひきやすく、午後になると疲れ切ってしまうような人に良いが、イライラしている時や更年期障害(陰虚)によるほてりなどがある際に用いると症状を増悪させるので注意が必要。

 *抗アレルギー薬や解熱鎮痛薬を極力とらないことが最も重要な予防策。治療の際もそれらの薬のデメリットよりもメリットが大きい場合のみ使用すること。(例:高熱が続き食べれない・飲めないetc)
  そこまでの状態であれば近医受診。

<咳>

 55番麻杏甘石湯、タンがある時→95番五虎湯 or 91番竹筎温胆湯、不眠がある時→91番竹筎温胆湯

 のどのつまりや痰には16番半夏厚朴湯

 

<のどの痛み>

 ノドの痛みが出てカゼっぽいなと思ったら、市販薬の銀翹散を内服。風邪の初期やアレルギー症状に良く、中国では風邪やアレルギーに最もよく使われる処方。鎖国以降にできた薬のため、日本の漢方医療にはない薬。Amazonなどでも購入できる。クラシエのものがコスパが良い。

 慢性的にのどがヒリヒリする、皮膚などのアレルギーもある場合は、50番荊芥連翹湯を用いる。のどのつまりあれば16番半夏厚朴湯併用。

 寒気を伴わなければ109番小柴胡湯加桔梗石膏湯との併用も良い。銀翹散が無ければ50+109が良いが、即効性は銀翹散のほうがあるので、銀翹散は常備しておくと良い薬。

 

<嗅覚・味覚障害>

 鼻づまりや、鼻腔粘膜の炎症感などがあれば104番辛夷清肺湯+玉屏風散。特に鼻づまりがひどかったり、副鼻腔炎、咳がある場合は55番麻杏甘石湯と104番を併用すると良い。

 味覚障害は嗅覚障害によるものもあるが、体内の熱による津液の消失によるものも考えられ、ノドよりも口が乾く場合は29番麦門冬湯を標治(注釈2)として、87番六味丸・7番八味地黄丸・107番午車腎気丸などを本治として用いる。

 

<胃腸障害>

 軽い吐き気・食欲不振:70番香蘇散

 下痢+吐き気・嘔吐:114番柴苓湯

 便秘:84番大黄甘草湯、咽頭痛などの熱症状があるとき→113番三黄瀉心湯、兎糞便→126番麻子仁丸

 

<近医受診のタイミング>

 基本的に西洋医学には対症療法しかないため、外出することのデメリットの方が多いことは頭に入れておくこと。

 感冒で注意する点は、脱水と呼吸困難。

 脱水は舌を普段から見ておくと乾いてるかどうかがわかる。水分がとれていればほぼ問題ないが、脱水が進むと意識障害などが出るため、意識混濁などが顕著であれば近医受診。

 呼吸困難は不安によっても生じてしまうため、呼吸回数が多く(20回/分以上)、手足がしびれるようであれば過換気症候群の可能性もある。

 咳嗽がひどく呼吸困難になる場合は、横になることが難しくなる時もあるので、そのような状態であれば近医を受診すること。

 通常の風邪は3日以内に改善傾向になるが、3日目になっても改善の兆しすらない場合は、近医受診を検討しても良い。

 

上記はあくまでも参考でしかありません。

すごく迷ったら「#7119」に電話して相談してみましょう。

https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/appropriate/appropriate007.html

 

*注釈1 本場中国の中医学と日本の漢方医学の違いは、江戸時代の鎖国によって生まれた。鎖国以前は中国の医学と同じだったのが、鎖国以降、中国は飽食の時代に伴って医学が進化し、「温病(うんびょう)」という概念ができた。

*注釈2 標治:症状をとるための治療。29番は乾性咳嗽や口渇を治す。作用はマイルドで慢性的な症状に効果的。

     本治:症状の原因になっている根本原因の治療。乾性咳嗽や口渇は腎陰虚による津液の不足によるもので、その根本治療は補腎である87番六味丸・7番八味地黄丸・107番午車腎気丸になる。