新型コロナウイルスの感染者数が増えてきました。本当の第二波は、従来のコロナウイルスの感染が増える秋ぐらいから訪れる可能性が高いでしょう。いまや、このウイルスを撲滅しようと考えているのは、科学者どころか一般の人もほとんどいなくなりました。夢のようなワクチンの開発を期待している人もいます。それがもしできたら嬉しいことですが、インフルエンザウイルスに対するワクチンや薬、検査と同様に、新型コロナに対して特別有意義なものができあがる可能性は低い、あるいはそれを頼りにして生きることに意味はない。と僕は考えています。それはこれまでもこれからも、自然界の摂理を制御しきるほどまでには、まだまだ人智は及んでいないからです。このウイルスに対しては、インフルエンザ同様に共生していくことを考えるでんきであろうと最初から思っています。その時に大切なことは何なのか、それはウイルスから逃げることではありません。それがどれだけの時間と労力と健康とお金の無駄であることは、これからわかっていくことでしょう。アレルギーの人がアレルゲンを生涯避け続けるよりも、同じものを食べてもアレルギー症状が出ない人の体に近づくことが本当の治療です。新型コロナに感染しても、死なない人はどういう体なのか。命を落としてしまう方は、どのような生活が原因なのか。そういうことを考えて実践するべきです。体質を変えるには生活を変えなければなりません。現状の私たちには、それ以外の方法がないことを、もう一度思い起こして、過剰な怯えや不適切な場所でのマスクは、心身を弱めてしまうことを再認識してください。自然に対する畏敬の念に立ち返り、どう生きていくべきなのかを考えましょう。未来の不安のために現在を犠牲にしないことです。私たちはいま、このコロナ禍から何を学ぶべきなのか。第二弾はからだとこころの「熱」に関して書きたいと思います。

 

 世の中のすべては陰陽の法則の上に成り立っています。月と太陽、女性と男性は陰陽の象徴です。人間のホルモン分泌は、睡眠や覚醒の時刻に関わらず、陰陽の光や音のリズムに同期しています。例えば、どんなに早く寝ても遅く寝ても、成長ホルモンはだいたい22時から2時の間に分泌されることが科学的に解明されています。さらにそのリズムの上に、食事や睡眠、そしてストレス(収縮)とリラックス(弛緩)による心身の「熱のリズム」が人間の健康に深く関与しています。例えば、夏の野菜はその土地に生きる生きものたちの心身を冷やし、冬はその逆です。あるいは、1日の中でも熱のリズムがあります。朝の日の出と共に、大地は熱され、小鳥たちがさえずります。夕方になると、月の光に変わり、夜の虫やカエルたちの鳴き声が訪れ、大地の熱は冷まされていきます。パソコンや携帯などのブルーライトは、日中の太陽の青い光なので、夜に携帯を見ると、脳で昼間用のホルモンが分泌されるために、覚醒作用があり、入眠障害の原因になります。年中土地柄の違う食べものを食べ、家に帰ってもストレスを感じるような活動をしていると、体内の「熱のリズム」が、自分の生きる大地とずれて来てしまいます。

 

 このように現代社会は自然界のリズムずれやすい傾向があり、どちらかというと「熱」をため込む状態に陥りやすくなっています。夜も煌々と青白い光が溢れ、持続的なエンジンやモーター音が一日中身の回りにあります。都会に生活していると、夜の音も光も、今ではなかなか感じることができません。すると、身体は夜(陰)の時間に、熱(陽)を冷ますことができ

ず、心も家庭や宇宙(陰)の世界へ解放されることなく、社会(陽)から離れることができなくなってしまいます。

 

 もう少し食事を見ていくと、僕らが子どもの頃は、高価でご馳走だったはずの肉(陽)は、いまや野菜(陰)よりも安くなり、外食をすると肉以外の選択肢が難しくなるほど食文化は変化しました。食べものの価格が下がるということは、薬品や遺伝子組み換えによって、発酵や成熟のためにかかる時間を減らしたり、機械化をして収穫効率を上げ、雑草が生えるのを農薬で防ぐなどして、人間の労働力を減らしているからです。効率の良い肉の収獲のために、高エネルギーな遺伝子組み換えのトウモロコシを食べさせられ、広い牧草地ではなく、狭い牛舎で熱を発散することもできなくなった家畜の体は、以前よりも熱(陽)を持った状態になっています。これは漢方治療をしていると熱を除去する治療で改善することからわかってきたことです。心身が現代的な生活の中で、熱が過剰にたまった状態の方は、乳製品をはじめ、動物性の脂肪は、アレルギーや過食といった体内の「熱」が原因である症状を悪化させる要因になります。特にこれらの食べものは、たまに摂る程度なら良いのですが、「からだに良い」という宣伝の影響で、毎日とることが多いため、気づかずに摂取し続けていると、症状は非常に強くなります。少しでもアレルギーに悩まされている人は、毎日とっている乳製品をやめてみましょう。放射能にしてもそうですが、たまにCT検査で大量に浴びるぐらいなら、人間には元に戻す自然治癒力が備えられています。問題は、無意識のうちに毎日さらされている微量かつ持続的なストレスに気づいて、そこから回復する時間や手段を設けることなのです。

 

 また、心の熱についても考えてみましょう。心の熱は、行動や思考に対する自分自身の「設定」と現実のズレによって生じる摩擦熱のようなものです。つまり、「こうあるべき」という設定から、現実がずれてしまうことに対して、人間はストレスを感じ、心の熱を生じてしまうのです。例えば、子どもに「こうなってほしい!」という思い(設定)から、実際の子どもは良くも悪くもズレます。それを自分(親)の設定どおりになるように修正しようとすると、そこに摩擦熱が生じ、怒りという熱を生じてしまいます。

 

 いま親となった方々も、子ども時代に一番されたくなかったことは、自分自身の価値観や生き方を、親の設定に合わせさせられて生きることだった方も多いのではないでしょうか。「ありのまま」の子どもを受け入れて、そこから自分自身で自分なりの解決をするのを見守り手助けする、つまり親側の設定をゆるめることで、心の熱が生じにくくなります。宿題(勉強)・遅刻が、親子ゲンカの二大原因ですが、社会に出て失敗する前に、幼少期に失敗をさせて、子どもたちが自主的に自分で修正するのを見守ってあげてください。

 

 一方で、親御さんが、自分自身に対して「こうあるべき」と設定を強くしてしまい、自分がそこまでできてないと考えることが心の熱を生じさせてしまうこともあります。自分の中に、そうした自分への怒りが生じてしまっている場合は、自分の設定を今一度しっかりと見つめ直して、もう少しゆるめてみましょう。

 

 最後にいま、とくに生じやすくなっている熱が、社会に対する熱です。社会は「こうあるべき」という監視の姿勢は、必ずズレが生じます。人間はつまるところ、善悪の問題でしか悩んでいません。とくに新型コロナウイルスのような問題は、まだ誰にも正解がわかりません。それにも関わらず、偏りが大きく、少ない情報の中で設定する自分の正しさを、他人や社会にあてはめようとすると、そこには大きな摩擦熱が生じます。そのときこそ、自分の野性を頼りにして、判断をし、他人にその価値観を押しつけないことが、自分自身の心の熱を冷ましてくれます。

 

 こういった様々な心身の熱がたまると、入浴などの温まる時間帯に増悪する、ベルトなどの締め付け部のかゆみ、手背から上腕にかけてのアトピー・じんま疹、あるいは虫刺されが悪化する中毒疹が増え、熱はさらに過食へと悪循環を形成します。花粉症では、鼻水よりも目などの粘膜が痒くなる温熱性のアレルギーが増悪します。このタイプの人は、乳製品や肉、アルコールといった温熱性の食品を控えて、早く寝ると改善します。また熱を冷ますために夜の睡眠で腎からつくられる陰が費やされると、老化が早く進み、首から上がほてるホットフラッシュという更年期障害の典型的な症状が出ます。

 

 更年期障害という言葉は、西洋医学的にはどうしようもない不定愁訴を一括した言葉として生まれた典型的な診断名です。「更年期だからしょうがない」というのは大きな嘘で、更年期障害は治すことができます。更年期障害というのは、40代に入って、腎が弱って陰が減っていくのにも関わらず、若いころの陽な食生活やストレスフルな生活、遅い食事や就寝を続けることによって、熱を冷ませなくなった状態で出てくる症状のことです。体が衰えていくのは自然の摂理で、仕方のないことですが、それに合わせて自分の生活を変化させていかないと、陰陽のバランスが崩れ、更年期障害特有の症状が出てくるのです。

 

 特に診察で気になるのは、受験を迎える子どもたちが、塾で遅くなるころ、高齢出産のお母さんたちはまさに更年期を迎えます。子どもの塾が遅いからといって、お母さんたちの睡眠までも遅くなる。さらに子ども以上のストレス(熱)を抱えるお母さんたちは、更年期特有のイライラ(熱)と不眠が重なり、悪い時に悪いものを欲するという悪循環で熱源である肉や乳製品を欲して体調がみるみる悪くなります。当然子どもの受験もうまく行かないことが多い。という悪循環がよく起こっています。僕は自宅が塾だった関係もあって、塾講師を高校生から8年ぐらいやりました。受験期の子どもは夏休みに朝の勉強習慣をつけている子どもはだいたいうまく行きます。大人でも子どもでもそうですが、塾での受動的な勉強は本当の子どもの学力を伸ばしません。学力を伸ばすのは、自分一人で能動的に勉強している時間です。子どもの体および脳のエネルギーが一番あるのは「朝」です。塾や学校で疲れた後に勉強をするよりも、体力が一番ある朝に一番大切なことをするのが、多くの場合、一番効率が良いです。「子どもが早く寝ないんです」ということを言われることがありますが、子どもが早く寝ないのは99%が親の就寝が遅いからです。中には天才的に頭が良くて、就寝前もその興奮状態がおさまらずに眠れない子どもがいますが、大柴胡湯(だいさいことう)や、抑肝散(よくかんさん)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうことぼれいとう)などで改善します。

 

 さて、ここまで現代社会にいかに「熱」がたまりやすいのかということをご説明しました。東洋医学の思想では、世の中のすべては陰陽のバランスでできていて、常に「動的平衡」が保たれている。と考えます。つまり、陰か陽のどちらかが過剰になったときは、自然とそのバランスを保つための自然現象が起きると考えます。今回の新型コロナウイルスの到来は、そうした動的平衡を取り戻すための自然現象の一つだと僕は考えています。その一つがこの「熱」のバランスだと考えています。

 

 中国で発表されている中医学の論文からしても、新型コロナの治療、とくに重症化の問題には、この熱(肺熱)と脂(痰濁)の問題が関わっています。つまり、重症化してしまう人には2パターンあります。ひとつは高齢者などに多いエネルギーが足りない状態(気虚)で、コロナウイルスの増殖を止められない場合、もうひとつは、熱が過剰に体内にあり、それを冷やすことができていないために、感染のスイッチが入った途端に過剰な反応、つまりアレルギー状態を起こし、サイトカインストームを起こしてしまう。というのが、若い人の死因になっている可能性が高いです。近年の花粉症の増悪は、PM2.5などの大気汚染や、自然の摂理を無視して過剰に植林してしまった杉の影響もありますが、その状況でも発症しない人がいるということの方がとても重要です。花粉症の増悪には、「水」と「熱」が関係しています。「水」がたまると鼻水タイプ、「熱」がたまると目やのどなどの粘膜の炎症・かゆみにつながります。その二つを改善するのが腎臓で、腎臓にとっては遅くない食事(遅い場合は糖質を少なくすることで腎臓のリズムの狂いを最小限に抑えられます)と、早い就寝が肝心になってきます。

 

 コロナ禍以前に、患者さんの日常にはびこっていた社会現象の中で、これはどうにもならないんじゃないかと思うものがいくつかありました。それは、都市部への過度な人口密集や満員電車の通勤と、遅い帰宅に伴う遅い食事と遅い睡眠、そして大量生産により過剰に摂取されるようになってしまった動物性脂肪という問題がありました。この3つはコロナ禍の自粛要請のおかげで解消の兆しを見せた社会現象の代表的なものでしょう。もとの生活に戻ろうとするのではなく、自然界が教えてくれた教訓を受け入れ、本当の意味での「新しい生活様式」をひとりひとりが再設定することが大切になってきます。現在の社会情勢を見ていると、東日本大震災のときのように、人類はこの事態を、自然界からの警告として耳を傾けていないように見えます。アフターコロナでこの警笛の恩恵を受ける人たちは、これをきっかけに、自然界のリズムとの同調を回復していく人たちなのではないかと感じています。

 

 前回書いた「水」の問題はすなわち「移動」や「規模」の問題でした。今回の「熱」の問題は、「睡眠と食事のリズム」、「植物と動物のバランス」、「心の熱」の問題です。

 

「水」・・・身土不二。なるべくその土地の野菜を食べて、その土地の近くの水を飲む。

      なるべく移動をしない。遅い飲食を控える。

「熱」・・・早く寝る。睡眠・覚醒リズムを前にずらすだけ。長く眠るのではなく早く寝る。

      過剰な動物性脂肪の摂取を減らす。アレルギーの人は毎日とる乳製品を減らす。

      自分の心の設定を見直し、自他を監視する世界から遠ざかる。