新型コロナウイルスの実情がだいぶ見えてきました。世の中はワクチンの開発を心待ちにしていますが、それほど有効なワクチンは開発されないだろうと僕は当初から思っています。また、誤解の多いまま報道されている集団免疫も、今後毎年訪れるであろう新型コロナの感染症には、あまり意味をなさないのではないかと考えています。

 

 今回は、免疫学の観点から、ワクチンの開発やマスクの着用よりも大切なことがあることを具体的に書いてみようと思います。

 

 内容が少し複雑になるので、先に概要を書いておきます。

 

・ウイルス感染、特に発症率や死亡率の高くないウイルスの感染に対する免疫は、自然免疫が重要になる。

 

・ワクチンで産生されるのは、獲得免疫であり、不活化ワクチンの場合は、粘膜免疫を担当するIgAというクラスの抗体が産生されないので、あまり意味がない。

 

・自然免疫は2011年にスタインマンがノーベル賞を受賞した樹状細胞の発見により研究が進んだ概念で、科学的にはそのシステムについて、まだ未解明の部分があまりにも多く、自然免疫を動かすような薬が開発されていない。

 

・一方、漢方薬の多くは、その自然免疫を動かしている可能性が高い。現に風邪をひきにくくする漢方薬があることや、原因のウイルスや細菌にかかわらず、感冒初期のころから、その症状に対して非特異的な治療ができる。

 

・大切なことは、風邪は自分で治すこと。インフルエンザも含むほとんどの風邪は、玉屏風散での予防や、葛根湯・銀翹散をはじめとした感冒初期の漢方薬の適切な利用で治すことができる。

 

・漢方薬の成分を部分的に抽出することで開発されたタミフルのような抗インフルエンザ薬は、ウイルスの殺傷能力がなく、細胞内に閉じ込めるだけなので、症状を引き伸ばしてしまう可能性がある。そもそもほとんどの人が、それらの薬を使わなくても治癒する。

 

・さらに、現在のような無計画な抗インフルエンザ薬の使用によって、本当に必要な致死性の高いインフルエンザウイルスが出現した時に、薬剤耐性が進んでしまっている可能性が高まってしまうため、必要最低限の使用に控えるべきである。

 

・集団免疫の獲得は、獲得免疫の始動なくしては実現されず、変異の激しいウイルス感染症の場合は、それが成立する可能性が低い。成立したとしても、ある程度の拡散は毎年起こる。


三つの防御壁

http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/globulin/glo_02.html より引用

 

 それでは、詳細に書いていきます。

 

 まず、免疫とは、「疫」すなわち自分ではない「異物」を排除する機構のことです。異物とは、ウイルスや細菌だけでなく、花粉などの微粒子などの自分以外の有害なもの(自己にとって必要のないもの)のこと。鼻や口から肛門に至るまで、粘膜で覆われている部分には、食事などの栄養分も含むあらゆるものが通過していきます。そこにいる免疫細胞は、目の前を通過するものが味方であるか、敵であるかを瞬時に判断しなくてはなりません。

 

 人間の免疫には、大きく2種類あります。一つが自然免疫、もう一つが獲得免疫です。

 

 自然免疫というのは、マクロファージや顆粒球(好中球・好塩基球・好酸球)といった、異物を食べる貪食細胞からなっています。異物がどんなウイルスだとか細菌だとかを、あまり細かく分類せず(非特異的免疫)に攻撃してしまうので、免疫能力としては未熟なのですが、その分、早く攻撃を開始できる免疫です。とりあえず貪食して、アラートを獲得免疫に提示する免疫です。

 

 一方の獲得免疫というのは、B細胞やT細胞という出会った細胞の「記憶」を獲得する免疫。一度出会った異物に対しては、記憶を持っている細胞が既に体内にあるので、同じ異物の再侵入があったときに、その既知の異物に対して強力な免疫応答を発揮します。

 

 ワクチンというものは、獲得免疫の機構を利用したものです。ワクチンで認識した抗原と一致したウイルスや細菌が入ってくれば、有効な攻撃をしますが、B細胞から産生される抗体にはいくつかのクラスがあります。粘膜面の免疫には、IgAというクラスの抗体がその役割を担い、IgGというクラスの抗体は、粘膜面より奥に侵入した抗原に対して反応します。生ワクチンはIgAとIgGの抗体を産生することができますが、不活化ワクチンはIgGの抗体しか産生しないと言われています。

 

 インフルエンザワクチンに関しては、不活化ワクチンなので、IgGしか産生されないので、型が一致すれば、重症化を防ぐ可能性はありますが、粘膜面のIgAは産生されないので、感染を防ぐことはできません。通常の免疫反応が起こって、解熱鎮痛薬などの使用をすることなく、しっかりとした発熱が起これば、自然免疫も含めた粘膜面の免疫応答だけで、治癒することができます。この反応の目安は、およそ3日以内に解熱傾向を認めるので、3日以内の発熱であれば、検査の必要もありません。

 

 また、ウイルスは生物ではない、つまり自己複製ができないので、宿主の細胞内に入り込み、そこで数を増やして最終的には細胞壁を壊して拡散していきます。ハッカクという漢方生薬の成分から開発されたタミフルなどの抗インフルエンザ薬は、ウイルスを殺す能力はなく、細胞内で増殖したウイルスを細胞内から出れないように封じ込める薬です。細胞内にウイルスが増えるので、血液中のウイルス濃度はすぐに下がり、解熱をしますが、細胞内のウイルスを攻撃することができないため、体内にウイルスがいる時間が長くなります。つまり、正常の生体反応ができないので、これらの薬を用いると、症状が長引いて、咳が続くなどの可能性があります。大切なことは、ほとんどの人が、それらの薬を用いなくても3日程度で治癒することです。また解熱期間に関しては、麻黄湯や葛根湯などの適切な使用によって、抗インフルエンザ薬とほとんど変わらない解熱期間の短縮を得ることができます。

 

 インフルエンザウイルスは、非常に変異の激しいウイルスなので、一人の人に感染して、次の人に移る頃には、その遺伝子が変化していることもあると言われています。ここで問題になってくるのは、薬剤耐性の問題です。薬剤耐性というのは、特定の薬剤を使っていると、ある程度の割合で、その薬剤が効かなくなるウイルスや細菌が発生するというものです。細菌に対する抗生物質では、既にその問題が発生していて、どの抗生剤も効かないような細菌が発生してしまうことがあります。特にインフルエンザウイルスのような変異の激しいウイルスの場合は、薬剤耐性を獲得したウイルスが発生しやすいと考えられるため、抗インフルエンザ薬の使用量が著しく多い日本は、世界的にも批判の対象になっていました。

 

 インフルエンザは自分で治す。というのが世界的な標準です。ワクチンや抗インフルエンザ薬を用いなくても、基礎疾患などがない場合は、ほとんどの場合は治すことができます。けれど、それを医療者側が伝えると、万が一重症化した場合は、医師の責任とされて医療訴訟になる場合があります。それを多くの医師は懸念して本当のことを発言しません。感染症の一つ一つにすべてワクチンを打っていくことは、コロナ禍のような不安の高まる中では無数に増えていきます。

 

 感染症というものは、宿主に害を強く与えるものほど広がりにくいという力学的なバランスがあります。つまり、新型コロナウイルスのように発症率や致死率が低い、弱いウイルスほど、広がることができるのです。

 

 結論としては、3日以内に解熱方向へ向かう風邪に対しては、西洋医学的な検査も治療薬も必要がありません。会社を休むために診断書が必要な場合は、症状の経過から判断してインフルエンザであったという診断書を医師は作成できます。そもそも、風邪をひいたのに会社を休めないという社会自体が間違っているのです。また、3日以内の発熱などの症状に対して、西洋医学ができることはほとんどないことも覚えておきましょう。インフルエンザで解熱鎮痛薬を使うと重症化するリスクが高まることは科学的に証明されています。COVID19に対しても、鎮痛薬を使うことがあるようですが、多くの場合、それは免疫応答を抑制するので、あまり勧められません。

 

 風邪は気をつければひかないようにすることができます。寝不足や過労、寒さ、乾燥、そしてマスクによる口呼吸は自然免疫の力を落とします。しっかりとした体調管理こそが、一番重要視されるべき対応法です。また、感染初期のうちに、自然免疫を動かす漢方薬の適切な使用を行うことが、ウイルス感染対策にはもっとも重要なことです。

 

 最後に集団免疫に関してですが、スウェーデンが集団免疫作戦という報道をよく見かけますが、それは間違っています。集団免疫は、結果的に達成できれば良いが、それが目的で政策を決めているわけではありません。スウェーデンは科学的な根拠がないことはしない。というスタンスであって、科学の限界をしっかりと認識した政策をとっています。

 

 そもそも、集団免疫とは、獲得免疫によってなされるものです。ウイルス感染に対しては、自然免疫の初動が重要になってきます。つまり、鼻呼吸にて鼻腔粘膜の自然免疫が適切に早期対応することが重要で、そのことが獲得免疫の始動も早くなります。集団免疫がウイルス感染に機能するか否かはかなり怪しいところですが、問題はそれ以前にあることを忘れてはなりません。

 

 ここまで来ると、重症化がなぜ起こるのか。ということが問題になってきますが、それについてはまたの機会に書かせていただきます。